夢なら覚めないで。

story5* ページ14

手越side


人は誰しも大切な思い出を
心に秘めている




それは砂時計のように
少しずつ流れ落ちていって
記憶の粒はなくなって

それでも落ちた先で
積み重なり、
確かに記憶はそこにある







目を閉じれば、
簡単に蘇る









すべてきらきら輝く
宝石のように美しい記憶

月日が経って
美化してしまったのかと
いうと、そういうわけでも
ないと思う









「手越、」


「なぁに？」



ふと、名前を呼ばれて
ぱちっと目を開ける


しばらく目を瞑っていたせいか
赤髪はひどく眩しく見えた




「幸せそうな顔して
どうしたの、」


「んーん、
思い出に浸ってただけ」




ふーん、って
興味なさそうに
そう言って隣に座ったまっすー、



手を伸ばして
「おいで」
って優しく言うから
その腕のなかに
素直に包まれる



ふわっといいにおいが
鼻を通って
あぁ、このにおいは
ライブのときに
俺が使ったまっすーの
ボディーソープだ、
って。



ちゃんと覚えてるよ、

ちゃんとここにあるよ、





「…っ、
…泣いちゃう、かも、」


「いいよ泣いても」



「…っ、うぇぇ泣」




優しく、優しく、
背中を撫でられる


泣き止んで、じゃなくって
泣いていいんだよ、って



その優しさが、あったかさが、
切なくて悲しくて
心がぎゅっと苦しくなる




「まっすぅ、…っ、
おれ、忘れちゃうのかなぁ…
全部、全部、大切なのにっ、
忘れたく、ないのに…、」



「俺がわかる思い出は
何度でも話してあげる、
何度でも聞かせてあげる、
手越が大切なものは
俺にとっても大切だから」


「ん、っ、…」



「俺話すの下手だけど」


「ふはっ、…知ってる、」


「たぶん、お前を
笑わせるのは得意だよ」


「うん、そうだね、」



こてん、頭を
胸に預ける


心音が心地いい、

安心する音。



俺は、まっすーが
発する音 すべてを
好きな自信がある


そしてそれは、
まっすーもだろう



「まっすー、だいすきだよ」


「ばかやろう、俺の方が
愛してるよ」


「んふふ、なんだっけそれ」


「シゲの持ちネタだよ」




シゲ、…


シゲね、わかるよ
メンバーの


メンバーの…、あの、…あ、れ、





頭が真っ白になる


覚えてるはずなのに、
覚えていなきゃ
いけない記憶なのに、


ぽっかり穴が空いたみたいに

いとも簡単に
こぼれおちた




こわくなってまっすーを
見上げる


まっすーはそんな俺を見て
首を傾げた

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