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『誰だお前』
なんて。なんて言ってるの。
まるで地の底から響くような声で男は喋った。
まぁ、ここはイタリアだからイタリア語で話すのは当然で。当然私がイタリア語など分かるはずもない。
ほぼ半泣き、パニック状態だった私は何もわからず、日本語で答えた。
｢……こ、殺さないでぇ…｣
なんて情けない声だ！
だけど、この馬鹿のような何の捻りもない命乞いに意外にも返事が返ってきた。
｢……日本人か｣
それも日本語で。
もう声を出すことも出来ないから、必死にコクコクと何度も頷く。
男は、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
脳が逃げろ逃げろと叫んでいるが、身体は全く動かない。
カツリ、カツリと男の足音が響く。
男は目の前に立っていた。
あ、死ぬ。もう死ぬ今死ぬ。
男は目の前にしゃがみ込んだ。
死んだ。もう死んだ今死んだ。
ビクリ、と今まで全く動かなかった身体が、
男に前髪を鷲掴みにされようやく動いた。ついでに喉からうひぃと情けない声も出た。
嗚呼、なんて恥ずかしい最期なんだ。お母さん、思ったよりも早く会えそうです。
｢おいお前｣
殺されるのはもう少し後らしい。
コレは、と言う男の視線は、前髪を掴まれてあらわになった額に向けられていた。会話を楽しんでから殺すのか。どうせなら一思いにやってくれ。
｢火、事で、やけど、です｣
ふうん、と男は額の火傷を親指でなぞった。
そこで私は初めて、男の顔の火傷のような痣に気づいた。
綺麗な顔なのに、勿体ないなぁ。自分の置かれている状況も忘れて思ってしまった。
｢お前、死にたくないのか｣
一拍、言葉の理解に遅れるが、必死に頷く。
｢…いいぜ。殺さないでやる｣
｢…え！？｣
意外にもあっさり了承されてしまった。が、
やったあ！と喜ぶ間もなく、ガシッと腰を掴まれそのまま脇に抱えられた。そしてそのまま、男は飛び上がって、屋根をひょいひょいっと飛び越えて…いや、おかしい。
｢うぎゃあああ"あ"あ"あ"！！！！｣
やっぱり殺される！！！
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作者名：野次 | 作成日時：2019年4月1日 13時
