＃12 伝えたい相手 ページ14
◈紫月side◈
企画の撮影当日、私はこっそり見学に来ていた。
みんな白いタキシード衣装を着て、
新曲のMV撮影は順調に進んでいる。
紫月「(すごいな…本物の結婚式みたい)」
今回のテーマのおかげか、いつもよりみんなの
パフォーマンスに気持ちが込められている。
大切な人へ、溢れる想いを届けるような…。
紫月「(見ててドキドキする…いいMVになりそう)」
休憩に入るタイミングで、
邪魔しないよう帰ろうと思ったその時だった。
真緒「…紫月！」
呼ばれて振り返ると、手を掴まれた。
紫月「お疲れ…どうしたの？」
真緒「その、もう行っちゃうのかと思って。
俺、紫月にお願いがあるんだけど……」
紫月「ん、なに？」
真緒「えっと……」
真緒くんが珍しく言いづらそうにしている。
私にできることなら力になりたいと思った。
真緒「…この撮影、最後まで紫月に見ててほしい」
紫月「え、なん……」
真緒「お願い」
すごく真剣な顔……何か理由がありそう。
紫月「…わかった」
真緒「ん、ありがとな」
その後、MVの撮影は無事に終わり、
次はプロポーズのシーンを撮っていく。
紫月「(…先輩たちのプロポーズ、
先輩らしさが出てていいな……次は真緒くんだ)」
カメラが回る瞬間、ふと真緒くんと目が合う。
ふわりと優しく笑ったと思ったら…。
真緒「俺はおまえと、手を繋いで歩いていきたい。
影を並べて、同じ歩幅で。
もし……離れるようなことがあっても、
その時は繋ぎ直せばいい。
はぐれないように、何度でも繋ぎ直しながら
いつまでも一緒に歩いていこう。
……愛してる」
「……はい、カット！」
紫月「…………。」
……息が、詰まりそうになった。
まだ心臓がドキドキしている。
あんな顔、できるんだ…。
紫月「…すごいなぁ」
真緒くんはアイドルとしてどんどん成長している。
本当に尊敬するし、応援したいと思った。
真緒「はぁ〜、緊張したぁ……」
紫月「お疲れ様。本当に、すごくよかった」
真緒「ん！紫月も見ててくれてありがとな」
紫月「ううん、さすがアイドルだね」
私がそう言うと、真緒くんは微妙な顔をする。
真緒「あ〜……それはそうなんだけどさ、
さっきの、紫月にも伝わってほしかったんだけど…」
紫月「…え、」
彼の悪戯っぽい笑顔が近づく。
真緒「…もう1回言おうか？」
紫月「い、いい……大丈夫、です」
意味を理解して、
しばらく目を合わせられなくなった。
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作者名：紫鶴 | 作成日時：2021年8月4日 15時
