救世主【北】 ページ13
午前五時、起床。
一時間勉強。
午前六時、朝食の準備に食堂へ行く。
私は食器の用意や盛り付けのお手伝いだけやけど。
稲荷崎学園合宿所で、我が男子バレー部は合宿中だ。
階段を降りると、食堂には信介がいた。
バレー部の主将にして、私の彼氏。
タブレット片手に何かしているようだ。
「おはよう、信介」
「ん、おはようさん」
いつも通りの顔で、信介は私を見遣る。
「相変わらず早起きやな、Aは」
「信介こそ。七時から朝食の予定だけど、先食べる？」
「いや、えぇ。時間通りに頼むわ」
「わかった」
淡々と会話をする。傍から見れば恋人ではなさそう。
実際角名に言われたこともある。
でも、恋人であるのは紛れもなく事実だ。
「……A、中学の頃は選手やったんやってな」
監督から初めて聞いたわ。
信介は何気なしに聞いた。
「そうだよ。珍しいね、信介が人に興味持つなんて」
「恋人の事くらい、興味持つわ」
……そういうとこだよ、信介。
顔には出さないけど、私は信介にぞっこんだ。
少しずつ、関西弁がうつってきている感じもする。
だいすきで、ずっと一緒にいたい人。
「北陸の方ではわりと有名だったんだけどね。
中学でプレーするのには満足しちゃった」
そこにちょうど親の転勤が重なって、バレーは辞めた。
「ほうか。でもマネージャーやるっちゅうくらいやから、
好きなんやな、バレー」
「まーね、習慣でもあったし。
でも、信介の方がバレー好きやと思うわ」
バレーが好きだ。
でも、私にとってバレーは一番じゃなかった。
音楽を心ゆくまで聴いたり、のんびり本を読んだり。
そんな時間の方が、私には大切だった。
「……好きって気持ちを誰かと比べる必要はない。
お前の中で好きか嫌いかで分けようとしたときに、
好きやって思うんならそれは好きやろ。
もっと自分の気持ちに正直でええねん」
信介はいつも正しいことを言う。
そしてその優しさは、ときに私を救ってくれる。
……私、バレーが好きって言っていいんだ。
「うん……そうだね」
それよりも、と信介は笑う。
「Aがバレー好きでほんまに良かったわ。
好きやなかったらマネージャーになっとらんやろうし、
おれもAに会えとらんかったやろうからな」
その笑顔が、まっすぐな好きだ。
「私も……私がバレー好きで良かったわ。
信介に出会えて、ほんとうに良かった！」
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ちくわ太郎(プロフ) - 一つ一つの話が最高過ぎる (3月23日 2時) (
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作者名：烏丸 | 作成日時：2016年11月13日 14時
