. ページ38
.
「なぁ、西森」
「は、はい！！」
もうすっかり油断していた。
あの轟くんが話しかけてくることはないだろと思っていた。
ハンカチの日みたいに噛みはしなかったから、よかった。
背を向けていたが急いで方向転換し、轟くんに向き直る。
目を見て話すのは、少し怖い。
呼び止められたから、何か話があるのかと思ったが、轟くんは一向に口を開かない。
何かを考えているのか、それとも何もないけど呼んでみたのか。
いや、後者はない。そんな仲じゃないから。
じゃあ、やっぱり用があるのか。
中々言い出さない轟くんの顔を覗き込む。
表情は、何も変わっていない。
顔は整っているが、それ以上に視線が怖い。
「あの、何もないなら私そろそろ…」
「お前の個性、炎って言ってたな」
この人は話を遮ることが好きなのか。
そして、また個性の話。
バスの中でも聞いてきたじゃないか。
それとは別のことが聞きたいのか。
私なんかより、優秀なお父さんに聞いた方がいい気がする。
私は劣化版みたいなものだから。
「炎ってのは、どうだ」
「どうって、どう？言葉が少なすぎてよく分からないのだけど…」
「…いや、やっぱいい。時間とらせて悪かったな」
しばらく考えた後、轟くんは話すことをやめる。
それは、気になる。
やっぱりいいと言われると、期待に添えなかったのかと気になってしまう。
でも、炎がどうだと聞かれても、何に対してどうだと言われているのか分からない。
使いやすさかなのか、力なのか、何なのか。
轟くんが何を聞きたかったのかは、結局分からない。頭にはてなマークを浮かべたままだ。
「轟くんはさ、左の炎、使わないの？」
我ながら性格の悪い質問だと思う。
轟くんは気付いていなかったが、私はあの内容を聞いたのだ。
左を使わずに1番になる。
お父さんを完全否定する、その決意を私は耳にした。
それなのに、この質問をするのは、性格が悪い。
だけど、聞いてみたかった。
1度出た好奇心は、抑えられない。
轟くんに冷たい視線を向けられる。
それは、轟くんの個性より冷たいものだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 180人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：kyon x他1人 | 作成日時：2021年5月22日 21時
