Butterfly I Loved 【黄緑】 (ページ17)

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空をきる感情ページ17

先程までの宙に浮くような気分が、胡散臭いハーブとタバコのむせかえるような香りで吹き飛ばされる。

ふと思えば、物心付く頃には薄汚れた作業服を着た初老の男達の口から吐き出される紫煙に慣れていた幼少期だった。

生まれて間もなく事故で両親を失い、親戚やその知人、誰かも知らない大人に囲まれた環境をたらい回しにされながら生きてきた。

“育ての親達”の顔など覚えているはずも無く、今でもタバコの副流煙を吸い込む度に、逆光に照らされて黒く浮かび上がった輪郭が幼い体に影を落とす。

けれど、嫌でも思い出すことのできる人が二人いた。

俺に毛布のような温かさをくれた人と、泥にまみれた金を目当てに俺を売った人。

二人はどこを比べても対照的で、その年齢さえも、俺にしてくれたことも、俺の将来をどのように左右したかさえも。

第八管轄地区にある、今では無人になった団地で居候として暮らしていると、不自然なほどに白い朝日が壁を照す朝、糊のまだ固い、下ろし立てのシャツを着せられ、その家庭で豪華とされていたクロワッサンが朝食に出された。おまけに自分だけオレンジジュースまでご馳走になってしまったので、小学校に通っていた一つ上の少年から睨まれ、これから何が起こるかもわからなかったが、何故だかいたたまれない気持ちになった。

叔母さんに手を引かれて、第八管轄地区の孤児園の門をくぐった。少しふっくらした園長が笑顔で叔母さんを迎えた。

靴を脱いでいる間も、絶えること無く子ども達の騒ぎ回る声が聞こえてきた。

応接間の慣れない皮張りのソファーに座らされて「親権」や「維持費」などの、当時は理解できなかった言葉が飛び交う空間にぽつんと一人残されたようだった。

応接間から廊下が見えるガラス窓に映る、頬が痩せこけてサイズの違う真っ白なシャツを着せられた少年と目があった。

ぼんやりとガラスに映った自分を眺めていると、「お友達を呼んでくるからね」と、園長が目線を合わせるように屈んで話しかけてきた。

普段よりも高い声の叔母さんが「良かったわね」と、お世辞に乗せられて上機嫌のまま言った。