二十七兎 ページ36
「え。 あそこに戻るつもりだったの」
「…だめですか?」
「……いいけど。面倒な事になるよ」
騒ぎが起こる前に船へ戻ろうとした神威さんと万事屋へ顔を出したかった私で意見がぶつかり合うも何だかんだお許しが下りた。
しかし、神威さんが危惧していたように胸元から足先にかけて血塗れで帰ってきた私たちを出迎えたのは、怒りに満ち溢れた怒号だった。
「嫁入り前の娘に何さらしとんじゃァァァ!」
ひらりと舞った真っ赤なチャイナ服。
モデル級に長いおみ足が神威さんの顔面目掛けて飛んでいき、当たる寸前包帯を巻いた手のひらが受け止めた。
「仕事帰りで疲れてるんだけど。
そろそろお兄ちゃんに労りを覚えたらどうだい」
「一丁前に労ってほしいなら、その石頭並にカタイ両肩ほぐしてやるアル。ッオラァァ!粉砕しろォォォ!!」
「やれやれ…困った妹だ。
そんなに構ってほしければ、構ってや───…っわ」
「騒がしいと思ったらやっと帰って来やがったか」
お互いに拳を向け合い、兄妹喧嘩のゴングが鳴り響かんとした合間を掻い潜り、ぬるりとやって来た声の主。
その手によって私の体は神威さんの方へと傾いた。
バランスを失った体は拳を収めた神威さんによって助けられ、ホッと息をつく。
戦意を削がれた兄妹二人は、やるせない瞳を声の主へ向けている。そこに居たのは、寝癖のだらけの銀さんだった。
ほんの数秒間を置き、兄妹喧嘩の仲裁のきっかけとして使われたのだと理解した。なんとも手荒い。
「朝帰り通り越して昼帰りたァ、良いご身分で。
なにをナニして乳繰りあってたか知らねェが限度ってモンがあんだろーが。 どんだけ激しく乳繰りあったらそんな血まみれになんの?ちょっと銀さんにも教え…ッひでぶ! 誰だ今蹴った奴!!」
「年頃の女の子二人前にしてホントキモいアル。
二度と話しかけないで」
はたして神楽ちゃんと4歳も差がある私が年頃の女の子枠に含まれて、後ろのお方から「年相応の自覚を持ちなよ」と、やや辛辣な言葉が飛んできてもおかしくない。
「いつまで思春期女子気取ってんだテメェは!」
「坂田さん、坂田さん。
神楽ちゃんは16歳なので可愛い盛り真っ只中です」
「知ってますぅ! っつーかなんで俺が責められてんの。なんなの?銀さんが悪いの?ごめんなさいねッ!!」
平和的で懐かしいやり取りに張り詰めていた糸が切れかけ、神威さんの胸元に力の抜けた体を預ける。
凝り固まった考えが解けていき、早く着替えに行きたいなぁなんて考えたりもして、意外と切り替えができてる図太い自分に少しだけ感心した。
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めぐぽん(*´・∀・)(プロフ) - こんにちは!夢主さんが幸せでいられる事を願います。面白かったです。 (6月6日 10時) (レス) @page42 id: baf8bee298 (このIDを非表示/違反報告)
おふ - 一気読みしました!!(´TωT`)まじ最高でした!!ありがとうございました!!! (2022年9月23日 16時) (レス) @page42 id: 7784361647 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - うりえルさん» どれも私には勿体無いお言葉ばかりでじんわりきました…( ; ; )たくさんの素敵な小説の中 夢中になって頂けた事、嬉しいコメントも頂けてこの作品を書き始めて本当によかったです…!こちらこそ最後までお付き合い下さりありがとうございました!(*´▽`*) (2021年4月26日 20時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
うりえル(プロフ) - 完結おめでとうございます。まず私はこの作品が大好きです!毎回兎少年と一週間の更新を楽しみにしていました。最後までおいもさんらしくて涙が出てきそうでした。私は初めて夢中になった小説です…もう感謝しきれないほど…。兎少年と一週間制作、誠にお疲れ様でした。 (2021年4月25日 4時) (レス) id: 45d3b70981 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - 七瀬未来さん» な、な、七瀬さん〜!! ありがとうございます!褒め言葉の胴上げに浮かれてしまいそうになりました…(*´ `*) 更新が止まってしまったりと予定より長引いてしまいましたが最後までお読み頂けてとっても嬉しいです(∩´∀`)∩! (2021年4月21日 2時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年9月18日 1時