兎少年と一週間(参)

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目玉焼きにふりかけご飯、お味噌汁と銀さんお手製のシンプルな朝ごはんたちが食卓に並ぶ。あ、やった。今日は大根のお味噌汁だ。お豆腐とわかめ以外の具は久しぶりで細やかながら嬉しくなる。

「いただきます」の声の後 一斉に複数人の手が食卓へ伸びていく。
例に漏れず、私も朝ごはん戦争へ参戦した。スプーンを握り、お豆腐をすくい取る。…が、隣から伝わってくる振動にお豆腐はボチャ、とお味噌汁(故郷の海)へ戻っていってしまった。

手錠で繋がれているのに両手を使おうとする神威さん。
不本意満載の理由でこんな事になっているので不便な現状を作り出した本人に意見しても誰も咎めはしないだろう。

「神威さん、もうちょっとだけ落ち着いてご飯を…」

言いかけて、ふと ある事に気が付いた。
一度スプーンをお茶碗の上に休ませてから神威さんの袖口を引っ張り、銀さん達には聞こえないくらいの大きさでひっそり、声を絞る。

「子供の姿に戻れば手錠、すり抜けられないですか？」

常人にはできない事が神威さんにはできる。
神威さんだって心置きなくご飯を食べたいだろうし、この案に協力しない訳がない。私の話を聞きながら、ご飯の入った口をもごもごと忙しなく動かす。

あ、あれ？ リアクションが薄い…、ような。
真ん丸い瞳に見つめられること十数秒。ごくん。と、神威さんの喉が物を飲み込んだ。

「さっき俺の名前聞こえなかったんだけど、耳を悪くしたかな」

「耳…ですか？」

名前に耳。振った話と全く別の話が返ってきて、混乱する。

「神楽とお侍さんは呼んでたよね」

あ、あの時の。 ……確かに神威さんの名前は呼んでいない。でもそれにはワケがある。だってあの場で呼んだら喧嘩なんて優しい言葉では片付けられないくらい悲惨な事になりそうだったし、それに、す、…好きな人を呼ぶのはイチャついているみたいでどうにも恥ずかしくて。

「神威(テメェ)の事は呼んでなかったぜ、その女。
あ、旦那 醤油取ってくだせェ」

「あのさぁ、沖田くん。なに平然と飯食ってんの。
ただでさえ居候が増えてるっつうのに困るよほんと。うちの食事はそこいらのキャバクラより高いからね、一食10万はくだらないからね」

「まじですかィ、こんな貧相な飯に？
じゃ、請求は土方さん宛にお願いしやす」

しれっと食事に紛れ込んでいる沖田くんの発言に、神威さんはにっこり笑顔になり、不穏な空気を肌で感じ取った私は、誤魔化すように はにかんだ。
ああ、手錠がなければ、今すぐ神楽ちゃんの傍(安全地帯)になだれ込みたい。

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