兎少年と一週間(参)

十七兎 ページ2

ねりねり、ねりねり。
箸でつまんでは混ぜ、つまんでは混ぜ。納豆が入っている白いトレーが食卓の上でぐるりと回る。納豆を混ぜる時 片手だと思ったように混ぜられずに苦労する。

片手が早く治ればいいのに。あれ、包帯生活今日で何日目だっけ。寝付きの悪い日々が続いていてイマイチ頭が働かない。

「おい、………おい。そこの納豆女二号」

「っ！ わ、私ですか？」

「平気か？」

端的に訊かれ、二度三度瞬きを繰り返す。
何に対して訊かれたんだろう。寝癖を爆発させている銀さんの頭とその下にある冴えない目を交互に見やる。
混ぜ難そうにしてる納豆を気にしてくれてるのだろうか。
ううん、この光景は毎朝の日課となりつつあるので多分違う。私の隣でお味噌汁をすする神威さん以外の万事屋の三人から視線を受けて箸を置く。

「…あの、私大丈夫そうですか？」

「え？ うーん…」

一番聞きやすい新八くんに話を振ってみると悩ましげに腕を組み、考え込んでしまった。

「…そうですね。最近のAさんは疲れてるように見えるので万全ではない気がします」

「クマもひっでェしな」

目元を指差す銀さんに釣られて目元をなぞると空になったお茶碗を片手に立ち上がった神楽ちゃんがおかわりをよそいに向かう途中 私の後ろで足を止めた。

「Aちゃん、最近うなされてるアル。
あ〜可哀想ネ〜どっかのバカのせいアル」

"バカ"の部分を強調されると自分にあてられたものだと察知した神威さんの頭上アンテナがピクリ、と動くもわれ関せずと食事は進められていく。その後に続く神楽ちゃんからのトゲのある発言の数々にゆらり、ゆらりとアンテナは揺れる。

銀さん、助けてください。
間に挟まれてめちゃくちゃ気まずいです。もう私には納豆を混ぜる道しか残されてません。SOS…！

「外に出たがらなくなったのも社会人ぶってる誰かさんのせいアル」

連れ去られたあの日からめっきり外出が減ったのは確かだった。でもそれは万事屋の内装修理の手伝いをしたり、消費期限切れのプリンを食べて腹痛を起こしたり…色々な事が立て続けに起きたせいで神威さんが原因でと責めるものではない。

「神楽ちゃん、それは関係なくて…」

誤解を解こうとしている最中 食器を叩きつけたような大きな音が鳴った。

「A、出掛けるよ」

「……は、はい」

醸し出される不穏な雰囲気に気圧されて頷いてしまった。
まだ口をつけていない納豆を銀さんへ差し出して、私は外着を用意しに別室へと向かう。後ろで銀さんが混ぜ過ぎた納豆に文句を言っているのは聞かなかったことにした。

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