兎少年と一週間(参)

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人並みに初恋は済ませてきて、学生時代も大して話したことのない隣のクラスの子に片思いを募らせたこともある。どれも両思いには至らず枯れ葉のように散っていってしまったのだけれど。

そんな恋愛経験が限りなく0に近い初心者である私が20歳男性…、ううん。拗ね具合から見て男児と言っても良さそうな20歳男児こと神威さんの機嫌の治し方を知る由もなく、膠着状態が続いている。

「どうやって俺の機嫌を取るつもりなの？」

先手を切ったのは神威さんだった。
堂々と訊かれ、何も答えられない。謝るタイミングも逃してしまっていて、次第に眉が下がっていく。

「神威さん…私はどうしたら…！」

「それ、俺に訊くの？」

呆れた声が返ってきておずおずと顔を覗き見ると声に反して表情はそこまで曇っていない。

「あ、アイノコトバ、を囁いてみるとか！」

「どうせ恥ずかしがって出来ないんじゃない」

「そ、それを言われてしまうと…」

ふっ、と鼻で笑われ、悔しい気持ちになる。
どうしたら恥ずかしさが軽減されるだろう。こうして神威さんの顔を見ているだけでも数秒と直視できない。
意識する程 できる範囲が狭まっていく。
惚れたら負けとはよくいったもので。妹の神楽ちゃんみたいに女の子らしかったら少しは違ったのだろうか。
今の神威さんは仕草から何まで男の人と意識し過ぎてしまう。

───それなら、子供の姿だったら。
思い付いた案を頭を下げてお願いすると怪訝そうにしながらも見慣れた容姿に縮んでくれた。


「神威さん。今朝はごめんなさい、」

「……」

「…す、す…、っ…す！」

好きの一言が出てこなくて両腕を小さな背中に回し、ぎゅ、と抱き締める。恥ずかしがり屋なんて可愛いものではなく、これはもう根性なしの域…！
反応がないのが不安で抱く力を強めれば、溜息が耳元を通り過ぎ、髪を梳くように頭を撫でられた。

「……まぁ、頑張った方か。いいよ、合格で。
それにしてもおぼつかない "愛の言葉" だね」

「こっ、これでも精一杯で」

「はいはい。頑張った頑張った」

和らいだ年相応の表情に、好きだなぁなんてぼんやり惚けているとリビングの方から数人の足音がこちらに向かって来る。いち早く反応を示した神威さんは瞬く間に体のサイズを戻した。


「神威、A。仲直りは済んだか？ 出かけるぞ」

「そんなに急いでどこに…」

「こわ〜いチンピラ警察のネグラ」

「通称ゴリラの巣アル」

銀さん達らしからぬ忙しない雰囲気に神威さんと顔を見合わせる。一体リビングでどんな風に話がまとまったのだろう。

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