十六兎 ページ49
話の折り合いがついたようで張り詰めていた空気が解けていき、ゆっくりと耳に触れていた手が離れていった。
「それじゃ、行こうか。変な病原菌移される前に」
いつもと変わらない神威さんの態度になんだか安心する。
温もりが残る
「ガハハ! 団長は
「おおいやめとけって…」
「阿伏兎、そいつの給料三ヶ月無しにしといて」
去り際に、後方へ向けて指を三本立てると神威さんは定春くんのお尻を軽く押し、その場から足を遠のけた。
定春くんの背中に乗せてもらっている私は、その後に続いて鉄の扉を通り抜けるとその先に広がっていたのは、薄暗い一本の古びた通路。
天井の隅にクモの巣が張り巡らされていたり、切れかけの電球が点滅していたりとまさに絵に描いたような悪者の拠点。慣れた様子でどんどん前へ進んでいく神威さんの背中を怖じ気づきながら見つめる。
(…神威さんは、私が連れて来られたことをどう思っているのかな)
訊いてみたい。でも、立ち入っていい話なのだろうか。
土足で人の領域に入ってくる面倒な奴と思われでもしたら後々訊いたことを後悔するのは自分の性分からして分かりきっている。
顔を俯かせ、定春くんのやわらかい毛並みを撫でていると神威さんが口を開いた。
「…言っとくけど、俺はあいつらと違って年中盛ってないから」
脈絡がない突然の話題振りになんの話かと思うも、部屋を出る直前の話をされているのだと理解できた。
…こ、これは繊細な問題…。
答えようによっては今後神威さんの成長に関わる大事な分岐点。今まで銀さん並に下ネタが平気なタイプだと思っていたけど、根は思春期真っ盛りの少年だったなんて…慎重に言葉を選ばないと。
「……て、適度に。
適度に発散しておいた方が健康的かなぁ、とは」
そう言ったものの神威さんが誰かに夢中になっている姿を想像したら胃の辺りがキュ、と縮み込んだ。
「"しても"いいの?」
念を押され、心臓が大きく脈打った。
「……はい、って言ったらしちゃうんですか?」
「別に従うわけじゃないけど。
…ふふ。そんな嫌そうな顔するくらいなら、始めから体のいい事言わなきゃいいのに」
口端をつり上げ、瞳だけ横に動かす一挙一動に目を奪われた。相手のペースに頭がくらくらする。雰囲気にのみ込まれそうになったその時 救いの光とばかりに穏やかな明かりが射し込む場所へ辿り着いた。
一歩外へ出ると、雲一つない朝焼けが続いていた。
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おいも(プロフ) - えりぃさん» コメントを頂いてからお時間があいてしまいすみません( ; ; )少しでも神威さんの良さをお借りできたら、と思っていたのでそう言って頂けてとっても嬉しいです(´ `*)これからも楽しんでもらえるように精進致します…! (2020年9月16日 0時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
えりぃ(プロフ) - とっても面白いです!神威がカッコ良すぎます!続きたのしみにしています(ω) (2020年9月9日 10時) (レス) id: 0b16f52b12 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - みさまるさん» 引き続き楽しんで頂けていてよかったです(´ω`*) 更新の度になんて嬉しいお言葉まで…( ; ; )疲れがスススッと飛んでいきました…!ありがとうございます(*´ `*)三(*´ `*) (2020年8月16日 21時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
みさまる - 更新のたびに楽しく読ませてもらっています!そして最近の展開にドキドキ(* >ω<)ヤバい〜面白いです!更新ありがとうございます!!! (2020年8月15日 21時) (レス) id: fa0a68f749 (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - しおりさん» ほほ本当ですか…!ありがとうございます!私もコメントを頂けてドキドキしてしまいました…!(*´ω`)少しでも一日の活力の足しになっていましたら幸いです(´ `*) (2020年8月5日 12時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年5月6日 18時