兎少年と一週間(弐)

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人を落とすことはあっても落とされることはない。
神威さんはそういう人だと私は思っている。
ただ、神威さんの師である夜王鳳仙、そして父である星海坊主さんも一人の女性と出逢い、焦がれていた。

思うに、今よりも落ち着きがでてくれば、あの神威さんにも繋ぎ止めて置きたくなるような大切な人ができる日が訪れるのかも。


「あ…、」

「あ？」

思ったことを率直に言おうとして、ふと 気付く。
神威さん(本人)や周りから、神威さんがどんな仕事をして何をしてきたのかを聞いたことがないことに。 時に人を殺め、違法とされる取引を主とする犯罪集団のトップ。

その危険な情報は、普通に生活する上で知る必要はないもの。
だから伝えなくてもいい、という配慮なのだと思う。
詳しい経緯や過去にあった出来事は、訊かずとも知っていたこともあり、私から聞くこともなかった。

「…すみません。
誰かに好かれるような心当たりは…」

私が目を覚ましてから神威さんの名前を口にしていない彼らの前で、知っているような振る舞いは避けておいた方がいい。咄嗟に機転を利かせれば、阿伏兎さんと部下らしき方は顔を見合わせた。

「…あんのすっとこどっこい。
まさか神威(テメェ)のこと話してないのか？」

阿伏兎さんは天辺の髪をひと束手に取ると短いアンテナを作り上げた。

「いつも一緒にいるだろう。 嬢ちゃんとそう歳の変わらねェこ〜んなアホ毛生やした男が」

「……」

「おじさん達、あれの部下でね。
まぁ素性を知らされてねえのに無理に連れてきたのは悪かった。だが、団長に目をつけられたのが運のつきだと思っておじさん達に協力しちゃくれねェか？」

悪いようにはしないと話は続けられるも大事なことは何一つ語られてはいない。神威さん抜きで進む組織絡みの話に口を噤んでいると、鉄の扉が開く重々しい音が響いた。また誰か物珍しさにやってきたのだろうか。

その時 奥に立っている一人が「げ、」と苦い声を上げた。


「へ〜。こんな所に女子供ぶち込むなんて良い趣味してるね。阿伏兎、ロリコンだったんだ？
お前が女に押されて童貞みたいな反応してた頃からの付き合いだけど、全然知らなかったや。 ね、サダオ」

「ワンッ！」

この声は……、
軽快な声と元気の良い鳴き声に釣られて鉄格子の近くへ駆け寄り、錆びた格子を掴む。

「…団長ォ、いつセコ●に転職なされたんで？」

そんな皮肉に、神威さんは満面の笑みを浮かべ、靴底を鳴らしながら鉄格子へ足を運ぶと私に背を向ける形で立ち塞がった。

「セコ●？ いいや、アルソ●クだよ」

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