兎少年と一週間(弐)

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「王様だ〜れだ！」…定番のかけ声から始まった王様ゲーム。モノマネから恥ずかしい暴露話まで王道ネタが続く、つかぬ間の(比較的)平和なひととき。
そんな時間が崩れたのは、神楽ちゃんを含めた何人かが眠気に押し潰され、テーブルに伏せ始めた頃だった。

「六番の人は〜、二番の人を誘惑してくださぁ〜い！ 」

「あ、俺だ」

神威さんが "二" と書かれた番号の棒を王様に見えるように回転させた。しかし、その後に六番の棒を所持している人は名乗り出てこず、王様は訝しげに首を傾げた。

「おいおい〜、誰だぁ？ここまで来てイヤですぅ！なぁんて逃げは許されねーぞ。銀さんだってやったからね。ちゃァんと誰にも言えなかった恥ずかしエピソード言ったからね」

犯人探しならぬ棒探し。銀さんは近くにいる人たちから棒をひったくり、遂に私の方へと手が伸びてきた。

「こ、こ、ここには何もないです。
あるのは王蟲(おーむ)の子供だけです」

「六番はテメェかァァァ！ 渡しなさいA！」

「六番じゃないのでイヤです！なな何も悪いことシテマセン！」

"六" と書かれた棒を後ろ手に隠す。
幼いナウ●カに負けず劣らず、嫌だ嫌だと首を横に振るえば、隣に座る神威さんに棒を奪い取られてしまった。

「往生際が悪いよ、六番サン」

当てつけのように番号で呼んでくる神威さんは、普段から誘惑される事が多いのか余裕そうに笑っている。
対して誘惑とは無縁の私の勝ち目はゼロ。
助けを求めるように王様を見れば、天使のような可愛い笑顔を浮かべた。もしかして……！

「女の武器、た〜くさんっ使って頑張ってね！」

…もしかしなくとも、見逃してはもらえなかった。
女の武器と言えるほど立派なものを生まれつき装備していないのでどう仕掛けたらいいのかわからず、顔を向き合わせている神威さんを観察する。外見で褒めるところは幾つかあれど、それは誘惑とはまた違う。

まだ理性の残る頭で考えたところで相手の意表は突けないと踏み、グラスに残るお酒を何口も続けて呑めば、頭がクラリと揺れた。完全に理性が消えた訳ではないものの、思考はぼんやりとしていく。

「…神威さん…、」

片手を神威さんの耳元に添え、撫でるようにゆっくりと唇へ下ろしていく。そこまで来たところで目を細くして笑っていた神威さんは蒼い瞳を開いた。
その瞳を見つめたまま、恋愛ドラマで見たワンシーンを真似て親指で唇をなぞりながら、少し身を乗り出しあざとらしく首を傾げ 言葉を紡ぐ。

「……ちゅー、してもいいですか…？」

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