兎少年と一週間(弐)

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「鼻緒(ココ)、固ェままでさァ。
履く前にほぐさねェと擦れて…なんですかィ。その顔」

「いえ…その、」

鼻緒を指差すだけに留まった沖田くんに拍子抜けしてしまった。元より優しい一面はあれど、彼は基本的に人の反応を見るのを愉しむサディスト。
そのせいで、てっきり足を鷲掴みにされるものだとばかり思い込んでいた。

勝手な思い込みに少し罪悪感が芽生える。

相手に攻撃する意思がないと分かったところで身構えていた体の力を抜くと、沖田くんは数秒 私の顔をジッと見つめた。

「お前、もしかして…」

真剣な声色。その後に続く言葉がどんなものか予想もつかず、頭の中に疑問符が立ち並ぶ。

「とんだ雌豚でさァ。触ってほしいなら言いなせェ」

「っいだだだだ！！ ちっ違います！！」

私の表情や態度から考えを見抜いた沖田くんは、手加減なしに痛む箇所を指先で押してきた。頭の回転が速い。
けど、それを人の嫌がる事に使うのは止してほしい。
そして、抱(いだ)いたばかりの罪悪感を菓子折りをつけて返してください…！

グッ、グッ、…と私の反応を見ながら徐々に強まっていく指圧。痛みが足先から脳へ駆け抜けていく。
痛みで自然と溜まる涙が零れ落ちないよう堪えながら、大きく後ずさるもその反応は彼を喜ばせる材料にしかならず、ついには足首を掴まれてしまった。


「あ、いたいた。何男たぶらかして遊んでるのさ」

実力行使に出ようか考えている内に、割って入ってきた飄々としたその声と共に、沖田くんの背中に凄まじい一発の蹴りが入った。ボーリングのボールのように二転、三転と転がっていく光景に周囲から悲鳴が上がる。

「地球の男は女の涙に弱いって言うけど、本当だね。
アンタみたいなのでも引っかかる奴がいるんだ」

乱入し、騒動を起こした神威さん(本人)はあっけらかんとした様子で私の目元を自身の袖で雑巾をかけるみたいに拭うとつらつらと悪態を並べた。

強めに拭われたせいで少し目元がヒリヒリする。
しかし、そんなことを気にしている暇はない。
早くここから離れないと大乱闘サディストブラザーズが幕を開けてしまう。

「神威さん、怒られる前に退散し……っ！」

「退散？ 残念だけど、向こうはやる気みたいだよ」

ぎゅ、っと神威さんの腕を引きその場を離れようとすれば、ポリバケツが私達目掛けて飛んできた。
咄嗟に神威さんが持っていた傘を壁代わりにしてくれたお陰でバケツの中に入っていたゴミを被らずに済んだものの、足元の周りに散乱しているそれらから異臭が立ち込め、鼻をついた。

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