兎少年と一週間(弐)

八兎 ページ21

(side 銀時)


とっぷりと日が暮れ、お月さんが我が物顔で暗い夜空を練り歩く子夜(しや)。
神楽たち(ガキ共)が肩を並べて寝ているサマを目に収め、足が赴くまま薄暗い町を回る。行き先なんざ何処だっていい。こっちが好き勝手歩いてりゃァ 自ずと向こうからやってくる。

静まり返った店が建ち並ぶ道筋へやって来た所で刺すような視線を感じ、足を止めた。

やっとお出ましか。誘導するように路地裏へ入り込めば、そいつは布を羽ばたかせながら上から降りてきた。


「…よォ、話があんだろ？」

「なんだ。バレてたのか」

してやられたよ、と無機質な笑顔でそう話す相手──神威に目を細める。

「助かったよ、察しが良くて。
神楽(アレ)はこういった事に疎いからね」

「前置きはいい。生憎 夜更けに野郎とデートする趣味は持ち合わせちゃァいねェ。ちゃっちゃっと済ませようや」

「ああ、そうだね。じゃあ手短にしよう」

ひと呼吸置き、青い眼球が開かれた。

「……あの女、一体何処で拾ったんだい？」

あの女。今日の神威(こいつ)の言動を振り返るにAのことだろう。Aの憔悴(しょうすい)しきった様子にコイツとの関係を問い質すのは止めておいたが…目の前の相手から代わりに聞き出すことが出来りゃァ手間が省ける。

「その前にテメェらがどんな関係か聞かせてもらいてェとこだ」

「あれ、アイツ(A)から聞いてない？
…まァ ひけらかすタチでもないか」

知ったような口を利くそいつは夕刻とは違い勿体ぶる様子もなく、順を追ってAとの間柄を話し始めた。

…ガキが口走る絵空事のそれらは、にわかには信じられねェ内容だった。
だが、そもそもアイツ(A)自体があやふやな存在。
錬成しちまった身としては否定の言葉で塗り潰すことができねェ。

それと今の話で解ったことがある。
前にアイツが話していた最低ヒモ野郎は間違いなくコイツだ。意外とみみっちい事を気にするのはこれ迄の経験から身に染みている。
機嫌を損ねて被害が出ても面倒だ。この件は俺の心の中に留めておこう。


「…話は解った。 次は俺の番だ」

両の手のひらを相手の目の前に突き出した。
…話すしかねえか、真実を。

「アイツは、俺がこの手で生み出したホムンクルスだ」

「その頭は飾りかい？」

傘の銃口を突きつけ返され、問答無用で放たれた弾は俺の髪を貫き焦がした。冗談が通じやしねえ。
クラスに一人はいる自分の冗談は許せても他人の冗談は許せねェ面倒くせぇヤツだよ。
誰かコイツにギャグ漫画の心得を教えてやってくれ。

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