兎少年と四日目 ページ10
水の流れる音に食器と食器が触れ合う音。
日常的によく耳にしているそれらを目覚ましに体を起き上がらせる。
(……あれ…?)
ふと、自分が寝ていた場所が床ではなく布団の上だということに気が付いた。
…神威さんは?ここ数日布団を使っていた仮の主を探すもこの小さな部屋の中に姿はなく、首を傾げる。程なくして水の音はやみ、音の出処を探しにそろり、と覗き込むように台所へ顔を出せばパーカーの袖を肘まで捲りあげている神威さんと視線がぶつかり合った。
「起きたんだ。 よく寝てたね」
「! おはようございます、…あの。私もしかして昨日布団で寝てました…?」
「うん。驚くくらいグッスリ」
「あああ…!すみません!床で寝たつもりが…!」
も、もしかして一度床で寝た後に「よーし、パパ。今日はお布団で寝ちゃうぞ〜」などと横取りしてしまったのでは。…な、なんて失態を……!
慌てふためく私に対し神威さんはきょとん、と目を丸くするも直ぐに「あぁ、」と小さく相槌を打ち背中を向けて作業を続けた。
「俺が運んだからね」
「 "運んだ" ?」
「流れでわからない?」
「…。 私をですか?」
「そ。」
「もしやお熱が」
「あはは、メシ抜きにされたいのかい」
神威さんのキャラクター性からしてそんな会って間もない人に気を遣うなんて想像がつかず、困惑しながら体温計を差し出せば、容赦なくはたき落とされてしまった。
「呆けてる暇があるならこれ持っていって」
「えっ、あ、はい!」
そう言って手渡されたのは、平皿に山積みにされたおむすび。い、一体このおむすびの山はどこから。
顔を横にそらして相手の背で隠れていた向こう側を覗いてみると空になった炊飯器と塩の瓶が目に飛び込んできた。
「…か、かか神威さん」
「なに」
「一緒に病院へ行きましょう」
「喧嘩売ってるつもり?いいよ、買っても」
神威さんがわざわざ握ってくれた…そんな現実を受け止めきれず一連の流れから疑問符が絶えず生まれる。
感謝の言葉より先に飛び出した心配の言葉に苛立ってしまったのか、不意をつきおむすびを押し込まれた。
少し不格好なおむすびを喉に詰まらせかけて、胸をとんとん叩く。
「んぐ…!」
「それ食べたら顔洗ってきなよ」
お母さんを思い出させる世話焼きっぷり。
塩のよく効いた具の入っていないシンプルなそれを口の中いっぱいに頬張りながら返事の代わりにコクコク、頷いてみせた。
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むー - ご、誤字りました、トリップものです! (2020年5月16日 14時) (レス) id: f9521fcd0a (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - プーさんさん» わ! ありがとうございます!ドキドキ…!!今作も読んでいただけて嬉しいです…!(∩´∀`)∩ またキュンキュンしてもらえるように精進します〜! (2020年5月9日 11時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
プーさん - 今回のお話もとても面白かったです!キュンキュンが止まりませんでした〜( ; ; )おいもさんほんと大好きです〜! (2020年5月9日 6時) (レス) id: 420ad2ba4b (このIDを非表示/違反報告)
おいも(プロフ) - いるあさん» わー!ありがとうございます!喜んでもらえてよかったです…!本当にいつも嬉しいお言葉をたくさん頂いてて少しでもお返しできていたらいいのですが…!(*´ `*)Twitterでもお話できるの楽しみにしてます〜! (2020年5月5日 13時) (レス) id: 70decc27f6 (このIDを非表示/違反報告)
いるあ(プロフ) - おいもさん» 追記 Twitterの件了承してくださいまして誠にありがとうございます。フォローさせていただきますね。突然リプを送らせていただく事があるかも知れません、その時は暇人なんだなぁぐらいで流して頂けると嬉しいです。※Twitterでは口調が崩れる可能性があります。 (2020年5月5日 10時) (レス) id: 19f148ae0e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいも | 作成日時:2020年3月31日 21時