兎少年と一週間

兎少年と五日目 ページ16

ついてない日はとことんついてない。
誰かが世界をそう創っているのでは、と勘繰りたくなるほど定期的に巡ってくる厄日にメンタルがゴリゴリ削られていく。不運にも今日はそんな日だった。


「お姉さん俺の言ってることわかる？さっきからさぁ、何度も言ってるけどわかってないよね？」

「…申し訳御座いません。当店ではそのようなご対応は難しく、」

「難しいじゃなくて普通出来るだろーが。なぁ、大丈夫か？」

小馬鹿にするように鼻で笑い飛ばしてくるお客様にカチンと来るも冷静にならねば、と浅く呼吸を吐く。
理不尽で横暴な要求をしてくる方はたまにいらっしゃる。流石に手は出してこないとわかっていても高圧的な態度に萎縮してしまう。この場をおさめる為に折れたいところだけど、それだと今後他のスタッフにも迷惑がかかる。

ドキドキと波打つ心臓を落ち着かせるべく、微かに震える両手をギュッと握った。


「お客様、大変申し訳御座いません。何度も申し上げておりますが当店ではご対応できかねます」

「そればっかりじゃねえか！店長呼んでこい！」

店長なら定時で帰りました。…なんて言えずにやんわりと不在であることを伝えれば、大きな舌打ちを鳴らし商品が陳列している棚を強く殴られた。
その音は店内に響き渡る程大きく、棚に陳列されていた商品は床に落ちていった。

周囲の人たちは、不安げに視線を投げかけてくる。

事務所に飾られてるロ●の剣を装備して今すぐ討伐してもいいですか店長。私今なら伝説の勇者Aになれそうです。



「…へぇ、ここって暴れていいんだ」

重たい空気をぶち破るように割って入ってきた聞き覚えのある声に俯いていた顔を上げれば、お客様の後ろに神威さんが立ちつくしていた。

「何だよアンタ急に…」

気配なくやってきた相手にお客様は一歩後退ると床に散らばった商品の一つを踏み潰した。

「あ〜あ、弁償だね。オニイサン」

「弁償って。それはアンタが絡んで来たからだろーが」

たじろいでいたお客様は神威さんを見るや年下だと分かるとまた挑発的な口調に戻り、胸ぐらを掴みあげた。
お客様待ってくださいその人に喧嘩は売ったら命が…！
今にも試合開始のゴングの鳴り響きそうな危機的状況。このままでは死人が出てしまう。

神威さんが手を出す前に止めるべく、名前を呼ぼうとしたその瞬間 スタッフの子が電話片手に叫んだ。


「Aさん！！今警察呼びました！！」

▼→←▼

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す