平凡少女と兎少年(弐)

決断少女とお侍さん ページ23

「熱、下がらないですね…」

弱り切った表情で体温計に表示されている温度を見つめる新八くん。
寝込んでる私の分まで家事全般をこなしてくれていて足を向けて寝ていられないのに発熱している体は思うように動かせない。

「ずっ、ずみ゛ばぜん゛…！これ少ないですがぁ！」

「ちょっとやめてください！
病人からお金貰うのは絵面的にも不味いんで！」

枕元に置いてあるお財布からお札を数枚手渡そうとするも叱られてしまった。
迷惑料です！と残った元気を振り絞って叫べば、ついでに特大のくしゃみが新八くんの顔面に飛び散った。本当にごめんなさい。

「もう一週間も下がらないなんておかしいですよ。
一度病院で診てもらった方が」

「自力で治します」

「なんでそこだけ普通に喋れてるんですか！？」

神様、私に保険証をください。
保険証がなければそれなりのお金が必要となってくる。余計な出費は抑えなければ…！

頑なに病院へ行こうとしない私に新八くんは呆れた様子でお粥を作りに立ち上がった。

「よう。調子はどうだ、不良娘」

「おはようございます…。見ての通り絶不調です」

「そりゃそうだろうな」

立ち代わり部屋に入ってきた銀さんは布団の横で胡座をかいたまま頬杖をついた。
阿伏兎さんと月夜のデートを交した日から数日間 風邪を悪化させた私は熱にうなされていたのもあり、こうして銀さんと話すのは久し振りになる。

「夜中抜け出して夜風当たりゃァ悪化もするだろ」

「ん゛ッゲホゴホ！」

「月夜の密会は楽しかったか？」

バレていた。部屋を抜け出していた事を知られていた事実と密会という表現。ダブルパンチで真顔になる。

お母さんに内緒で学校をサボり、友達とカラオケやゲーセンで遊んだ帰り「学校から電話あったわよ。あんたどこ行ってたの！」と問い質された時と同じ気まずさ…！

「ど、どこまで知ってらっしゃるんですか」

「お前がバカ兄貴と何度か逢引してるぐらいは」

「逢引」

逢引ってあの、あれ。親しい仲の男女が秘密裏にランデブーするという意味の。

「逢引じゃないです。どちらかと言えば合い挽き肉にされそうな、あの、そういう関係なので "アイビキ" 違いです」

「どんな関係だそれ」

熱のせいで説明もおぼつかないことにしておいてください。
握り締めていた布団の端が手汗で濡れているのを感じながら神威さんとのやり取りを思い出す。あれはやっぱり、く、口説かれて…。

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