先輩の好きなとこ。

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「先輩、お忙しい中すみません。
こちら確認していただいてもよろしいでしょうか？」





私の手元から資料を奪おうと近づく先輩の手から
ほんのりと甘い香りがして、

椅子に座っている先輩が
下から私を見上げて目が合えば、
少し動揺して資料に目線を移し替えたのが見えた。






「ん、見るわ。
その間にコーヒー入れてくれない？」



「はいっ、少々お待ちください」





先輩のデスクの反対側にある
遠いコーヒーメーカーまで
一直線にダッシュすると





「なにニヤケてんの。きも」





横から裕太にさらっと毒を吐かれているのに
今日も気にすることなく私は頬が緩んでる。





・・・いい匂いしたなぁ、とか。

仕事してる姿素敵だなぁ、とか。





単純なことだけど、それも私にとっては
先輩が愛おしく感じる材料にすぎなくて、






「先輩のためにコーヒー作ってんすか」



「美味しく作らなきゃね」



「はいはい」






“機械が作ってんのにねー”



真顔でそんなことをいう裕太は
夢も心もない男だ。

きっと、おいしくなぁれって
心の中で念じていることがバレたら
もっと引かれるんだろうな。





「俺のも作ってー」



「えー？先輩に早く渡さなきゃいけないから
自分でとっとと作ってよ」



「俺には全然可愛くねぇな」





犯罪者を見つめるかのように
私を睨む裕太に、こっそり蹴り入れた後
私はコーヒーが零れないようにまた先輩のデスクへ。








·








「お待たせしましたっ、」


「ありがと」





飲み終わる瞬間を見届けたくて
私がいつになく先輩を見つめていると、
それに気づいた先輩は照れくさそうに笑って





「んまいよ」





またパソコンに目線を移した。






·





定時になれば
ロビーであの人を待ちながら
裕太に今日も先輩の報告をする。






＞ 先輩から色気が漏れてる。






女友達もいないし
唯一こんなことを話せる裕太には、
遠慮とか建前とかそんなことは関係なく
ただ私の気持ちをぶつけてる。





＞ Aからはバカが漏れてるね。





こんなことを言われても動じない。
だって、私の精神を保っているこの人がいるから。





·





「A、お待たせ」






私が今まで生きてきた中で、
奇跡と呼べることがあるとしたら
藤ヶ谷先輩が私の彼氏だということ。

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