【2j3j】誘拐先は吸血鬼の館でした【ⅱ】 (ページ1)

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言わないでほしいですページ1

吸血鬼の館にやって来てかれこれ1ヶ月が経った。
時間が過ぎるのも早いもので、私はこの館の生活に随分慣れ始めていた。

いやー。これならもう何が起こったって怖くないね。

たとえレオスさんが実験で部屋を爆発させても、三枝さんが猫毛で服を毛だらけにしても、黛さんがふざけて館全体を七色に光らせるハッキングをしても対処できそう。
(ちなみに全て実際に起きたことである)

そんな風に鼻歌混じりで歩いていたわけなのだが……

『ちょっと、がっくん！？がっくん！？！？』
「うっ……」

現在私は、目の前で突然ぶっ倒れたがっくんに大慌てしていた。

＿＿＿時は遡ること十数分前。
昼食を食べ終えた私たちはそれぞれ解散していた。しかし、がっくんは洗い物のために食堂に残っていた。

『がっくん。少し手伝うよ？』

「ほんと？！Aさんは優しいっすね！でも大丈夫っすよ！」

がっくんはそう言って私の申し出を断った。
しかし今日はやけに洗い物が多そうだし少しくらい手伝わせてほしい。

その一心で食い下がろうとした時、ふと違和感を覚えた。
がっくんの顔が少し赤く見えるのだ。なんだか呼吸も荒いし、手付きが覚束ない。

どうしたんだろう…？そう思ったとき、目の前でがっくんの身体が傾いていく。次の瞬間「バタン！！」と音を立て彼の身体は地に伏せた。

『えっ……がっくん！？』

慌てて駆け寄るとがっくんは苦しそうに息を吐いた。

これ、まさか。がっくんのおでこに手を当ててみると、吸血鬼とは思えぬほど熱い体温が伝わってくる。

『がっくん、熱あるの…？』

返答を待つも返ってくるのはうめき声だけ。どうやら相当きついようだ。

とりあえずレオスさんのところに連れていかなきゃ。
そう思いがっくんの肩に手を回した時。

「っ…みんなには、言わないでほしいです、」

『え……？』

絞り出すようなその声に面食らう。

言わないでほしいってどういうこと？だってこの熱、絶対レオスさんに診てもらった方がいいはずだ。

がっくんの瞳を見つめるといつになく真剣な目線が返ってくる。私は考えた後に短く息を吐いた。

『……わかった。みんなには言わない。だからとりあえず部屋に行こう。』

がっくんが小さく頷いたのを確認すると、私は今度こそ力の限り彼を支えて歩き出した。