鬼に魅せられぬように【wrwrd】

_____2話_____ ページ4

彼女はこの都、【月の都】の姫、通称"かぐや姫"。またの名を、A姫と呼ばれていた。

勿論、あの竹取物語の主人公である。
だがあの話と違うのは姫が好奇心旺盛、活発、否、活発すぎる少女ということだけだ。

従者であるトントンも苦労している。月読命さえも「君しかコントロール出来ない」とすがり付くほどだ。

他2人の従者も対して信用してないトントンである為、自分で頑張るしかない、と毎日胃が痛くなる日々を送っている。


「おーい、トンチー」


気の抜けた、いかにもやる気が無い声が背後から聞こえ、トントンは嫌そうな顔をして振り返る。


「なんや大先生。姫様を勝手に連れ出して危ない目に遭わせようとした無能が」

「いや違うんやって!それは姫様が外行きたいとか言うから仕方なく……」

「姫様は鬱が良いって言ったて言いよったんやけど」

「……嘘吐いてるんちゃうん?」


大先生___本名を鬱先生___が上目遣いでトントンを見上げる。
吐き気を堪えるトントンの表情は引き攣っていた。大の大人に上目遣いとは気色悪い。しかも同性だ。気色悪い。

説教をするのも面倒になり、鬱先生の横を通り過ぎてトントンは歩き出した。後ろから「待ってぇ、トンチ」と情けない声が聞こえたが気にしない。


「A様は【月の都】の姫や。立場を弁えてもらえんと困る」

「まぁそうやけど……ほら、姫様も年頃の女の子やし、外で遊びたくなるのは当然」

「じゃあお前はあいつらに姫様が攫われても良いんか」


トントンが言葉を遮って鬱先生をギロリと睨む。鬱先生の息がうっと詰まる。
トントンが口にした"あいつら"という単語に反応したのだ。

【月の都】の盗賊団___鬼神。
残虐非道、慈悲は無く、冷酷で、月読命も手を出しにくい。
その鬼達は"かぐや姫"と、そして【月の都】が何千年も守っている"不死の薬"を狙っている。

首領は"かぐや姫"より"不死の薬"を望んでいるらしく、死なない身体を求めている。
【月の都】は鬼神達への対策を練っている最中だが、何せ奴らは鬼である為、強さも知識も計り知れず、頭を捻らせていた。

だが姫と"不死の薬"は渡す訳にはいかない。姫にもそれを承知して頂きたいとトントンは思っている。

死なない身体でどうするというのだ。

トントンや鬱先生も死なないわけではない。
普通の人間より身体能力が高いことと、身体が丈夫なこと、そして多少長生きするだけ。

死なないということは何を意味するのか、トントンは知っている。

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