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_____25話_____ ページ28

「___トントン、どうしたの?顔色が悪いようだけど」

「……いえ、大丈夫です」


エーミールが心配してくれたのか、少しだけ微笑んでそう言った。気を使わせてしまったことに恥ずかしく感じ、心の内で大丈夫だと自分を励ました。


「……【鬼神】のグルッペン、か。トントン、何か知らないの?」


思わず呼吸が止まりそうになるのを慌てて我慢する。拳の中が手汗で滲んできたのを感じながら、力強く握り締めた。

俺に問いかけた月読様は、小さく「ごめん」と謝って軽く頭を下げた。いい思い出が無いとは言えないが、謝ることではない。

俺は何度も首を横に振り、詰まりそうになりながら言葉を紡ぐ。


「いえ、グルッペン・フューラーとは……」


脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。ぎゅっと唇を噛んで、聞こえるようにはっきりと喋った。


「全く面識もありませんし、存じ上げません」


もう過去の記憶とは完全に決別していた。
そう、信じたかった。




「トンち、なんで嘘吐いたん?」

「……」


会議が終わった後、俺と大先生は医務室へ行くため廊下を歩いていた。沈みかけた夕日が屋敷全体を包み込み、それは綺麗な絵画のようだった。

大先生が立ち止まって此方を振り向いた。


「知ってたんやろ、首領のこと。やないとあんな切羽詰まった顔せんもんなぁ、トンち」

「……それは」

「昔の友達やけん、やっぱ庇っとんの?」


何故知っている。俺は咄嗟に顔を上げた。
大先生は笑っていた。


「やっぱり?でもなトンち、そんな詰まらんことで姫様を救出できず、増してや"不死の薬"も奪われたら大惨事やで?」


大先生は『詰まらんこと』を強調して言った。
それは分かっていた。姫様や薬の方が大事なんてことは。

でも、大先生の言葉に頷けることが出来なかったのは、まだあいつのことを忘れていなかったからだ。


「……もう1度よう考えてみい。何が大事なんか、何を守りたいんか、___どちらの味方なんか」


それだけ言うと、大先生は踵を返し、俺を置いて医務室へと向かって行った。

___どちらの味方なのか。


「……くそっ!」


頭がごちゃごちゃになって分からなくなり、勢いよく木の壁を叩きつけた。乾いた音が鳴るだけで穴が空いたりはしなかったが、心の中は風穴が空いているように冷たかった。

過去なんて、とうの昔に捨てた筈だったのに。

もっと自分自身と向き合っていれば、こんなことにはならなかっただろうか。

今更悔やんでも、もう遅かった。

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あみーごー(プロフ) - 美桜さん» 更新遅れてしまってすみません……。出来るだけ沢山の方々に楽しんでもらえるよう頑張ります! (2017年3月25日 20時) (レス) id: c9fce9eca4 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - グフッ(゜Д゜)続きが…気になる!更新期待しております!頑張ってください笑 (2017年3月25日 13時) (レス) id: 7a0b0fb690 (このIDを非表示/違反報告)
あみーごー(プロフ) - ゆうさん» 楽しんで頂けて何よりです!ありがとうございます……!頑張りますね! (2017年3月8日 9時) (レス) id: c9fce9eca4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - だんだん面白くなっていく...!!一つ一つのお話が本当に面白くて次どうなるんだ?!って楽しみになります..笑 更新頑張ってください!陰ながら応援しています!! (2017年3月7日 17時) (レス) id: d1fdd0c861 (このIDを非表示/違反報告)
あみーごー(プロフ) - 蘭菊さん» 遅れてしまって申し訳ありません……。頑張って1日1更新目指します!ありがとうございます! (2017年3月4日 7時) (レス) id: c9fce9eca4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あみーごー | 作成日時:2017年1月28日 7時

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