_____17話_____ ページ19
反転する視界。ふわりと宙に浮く感覚。空を舞う右手。紅眼の自分の名前を呼ぶ声。
全てが虚しく、哀れだった。
トントンはそのまま、地獄の釜のようにぱっくりと口を広げた激流に呑まれた。
最後に見えたのは、必死に此方に手を伸ばす、親友の姿だった。
背中に激しい痛みが走る。呻き声をあげようにも水中の中でゴボゴボと泡を吹き出すだけ。苦しい。トントンは藻掻く。
息が出来ない。酸素を求めて、水上に手を伸ばす。その抵抗も虚しく、上も下も分からずトントンは暗くなっていく視界が悔しくて堪らなかった。
こんな所で死ぬなんて。ガボッと息を吐き出す。悔しい。まだ死にたくない。
「……る、っ……ぺん」
拳を握りしめながら、親友の名前を呼んだ。
勿論誰も答えることは無く、静かに意識は事切れた。
「……っ……きて」
誰かが叫んでいる。此処はあの世と呼ばれる所なのだろうか。もしそうなら、今頃大きな川の目の前に咲き誇る色とりどりの花畑に居る筈だが。
「お……て」
ならばせめて、地獄には行きたくない。特別悪事を働いたわけではないのだ。地獄なら閻魔大王に文句を言ってやろう。極楽浄土は誰もが夢見る。
「起きてってば!」
「……え?」
目を開けるとそこは無限に咲き誇る花畑……なんてことはなく、固く冷たい地面に俺は転がっていた。すぐ隣には大荒れの川。自分で這い上がったのか、大した生命力だ。
見れば分かる通り身体はびしょびしょに濡れていて、時折吹く風に身震いする。早く暖かい所に行って回復を待
「ちょっと!無視しないでよ!」
……今のは幻聴か何かなのだろうか。何故幼い子供の声がする?【鬼神】には幼女の幹部はいなかった筈だが。
俺と同じくびしょびしょで隣に座っているのは豪華な着物を着た幼女だった。歳は恐らく8か9いかないくらい。頬を膨らませまさに"怒っている"というのが分かる。
「……誰?」
「助けてもらってその態度はカイシンしないよ君!まずはお礼を言わなきゃ!」
なんだこいつ。俺が鬼だってことを知らないのか。だとすれば、本物の馬鹿だ。
というかカイシンとはなんだ。この場合"感心"だろう。
なんだこいつ。
「……ありが、とう?」
「よろしい!」
取り敢えず礼を言う。彼女の嬉しそうな笑顔に、何故か腹が立った。
「君ねぇ、溺れてたんだよ。背中も血出てるし、ここら辺危ない動物も出るし……慌てて飛び込んじゃった」
彼女は濡れた髪を弄りながら、今度は照れくさそうに笑った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 152人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あみーごー(プロフ) - 美桜さん» 更新遅れてしまってすみません……。出来るだけ沢山の方々に楽しんでもらえるよう頑張ります！ (2017年3月25日 20時) (
レス) id: c9fce9eca4 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - ｸﾞﾌｯ(゜Д゜)続きが…気になる！更新期待しております！頑張ってください笑 (2017年3月25日 13時) (レス) id: 7a0b0fb690 (このIDを非表示/違反報告)
あみーごー(プロフ) - ゆうさん» 楽しんで頂けて何よりです！ありがとうございます……！頑張りますね！ (2017年3月8日 9時) (レス) id: c9fce9eca4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - だんだん面白くなっていく...！！一つ一つのお話が本当に面白くて次どうなるんだ？！って楽しみになります..笑 更新頑張ってください！陰ながら応援しています！！ (2017年3月7日 17時) (レス) id: d1fdd0c861 (このIDを非表示/違反報告)
あみーごー(プロフ) - 蘭菊さん» 遅れてしまって申し訳ありません……。頑張って1日1更新目指します！ありがとうございます！ (2017年3月4日 7時) (レス) id: c9fce9eca4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あみーごー | 作成日時：2017年1月28日 7時
