香り ページ32
数センチの距離、
聞こえないはずないのに
反応が返って来ない。
涙を知られたくないから私は俯いたまま、
右側からの気配の変化をじっと伺うだけで。
気のせいじゃない、冬の夜の冷たさだけで
何も想いの気配は感じられない。
どこか何か、間違えちゃった？
それは致命的かもしれないと、ぞっとする。
「お前、ありがとうって、今言う？
今、それを言うって拒絶だって分かってる？
Aって時々辛辣すぎて息の根が止まるよ。
いや、繰り返すけど自業自得だからさ、
仕方ないって言われればそれまでだし。
そっか、そうだな、うん、ここは潔く、
俺、切られちゃったってことでいい？」
「え？違う！違うの！」
翔くんの言葉が切れるのを待てずに叫ぶ。
「あの頃の私、嫌われていなかったって
それが分かったからほっとしちゃって、
教えてくれてありがとうって思って、
きゃあっ」
今度は翔くんが、私が言い終るのを待たずに
ぎゅうっと抱きしめてきた。
それはそれは、強く、固く。
数センチの距離がなくなって、くっついて
隙間がなくなる。
懐かしい香り。
きっと香水は変わったんだろうけど、
“翔くんの香り“は、変わらないのね。
だめだ、崩れ落ちそうな感覚が気持ち良くて
自分から力を抜いてしまう。
肩の後ろの方、圧しつけて来る翔くんが
苦しそうに言った。
「A、ごめん、ありがとう」
くぐもった声。
耳と胸で聞く。
腰に回った手で支えられている。
こんな風に抱きしめられるの、記憶になくて
初めてなのかもしれない。
首と顎の間に押し当られた唇の感触、
すごく恥ずかしくて頬が熱くなった。
唇の後は、頬ずりされて止まなくて
そんな仕草から伝わる感情に戸惑う。
「翔くん、あの、ねえ」
「いいよ、黙っててよ。
俺、今、すっごい恥ずかしいことしてる。
分かってるから、でも止まんないから。
頼むからじっとしてて」
頷くしかなかった。
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おはな(プロフ) - ともさん» 彼の変化に戸惑わせてしまったようで、申し訳ありませんでした。その理由を彼の言葉の中に含めたつもりでしたが、やはり力不足でした。努力しようと思います。ご指摘頂きありがとうございました。 (2021年4月3日 18時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 急に紳士な翔くんにちょっと驚きが隠せてないですが（笑）昔話を楽しんでいる2人がとても心地いいです。 (2021年3月28日 9時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» たまりんさん、お返事が遅くなってしまってすみませんでした。年月を経ても想い続けた二人の一途さ、もう一息で願いが叶うところまできました。ホッとしています。辛い時間が長かったですよね。純粋だとシンプルになって飾らない言葉が嬉しい。伝わって良かったです。 (2021年3月27日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - ていくさん» ていくさん、まずは、お返事が遅くなってすみませんでした。この更新分では、彼がひたむきに語ってくれたので私的にはほっとしたところです。時間は要しましたが、饒舌な言い訳と圧倒的な言葉不足、陥り易い間違いに気付けて良かった。この後もお越し下さると嬉しいです (2021年3月27日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - おはなさん更新お疲れ様です。やっと、やっと翔くんと通じ合えた。気持ちではあの頃と同じ様に2人は想いあっていたけど、若さゆえなのでしょうか。どこかでやり直しがきくと思っていたのでしょうか。大人になった今だからこそ飾らない言葉が相手に届くと思いました。 (2021年3月20日 7時) (レス) id: 73cb3c7af7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2021年2月7日 0時
