失う ページ4
海堂さんは、私から視線を外さずに
いつものように優しく言った。
「Aさんと二人で会うのは
これで最後にするよ」
窓の外では、雨が雪に変わっている。
ガラスを通して気温が下がったと分かる。
だって風の音がする。
それくらい、沈黙が流れた。
ああ、馬鹿だ、私は。
誠実な想いを静かに伝えてくれた人を
こんな意地悪に利用して傷つけたのね。
優しさに甘えていい気になって、
なんて傲慢だったんだろうか。
「ごめんなさい、私、」
「謝らないで。俺は楽しかったから。
でも、今日、いよいよ分かったよ。
君、何か変わった感じがしたからさ、
それって男が原因だよね？
俺ね、こう見えてあんまり鈍くないんだ」
テーブルに置いたグラスを持ったままの
私の手を大きな掌が包んだ。
「馬鹿だね、そんな顔しないでいいのに。
何回も付き合わせてしまった俺の方が、
謝るべきなんだから」
掌から伝わって来る温かな心情が苦しい。
「もう誘わないよ、困らせない。ね？」
小さな頷きを繰り返して決心を受け入れる。
「よく知らないけどさ、その彼と仲良くね。
Aさんが笑っていられるようにって
陰ながら祈ってるよ」
海堂さんは、そう言うと席を立った。
掌の温かさがなくなったのを感じて俯く。
送れなくてごめんと置かれたお札が
暖房の風にちりちりと揺れている。
どうしようもない後悔で涙がこぼれる。
それも何か違うと感じて苛立つ気持ちを
瞼を閉じて鎮めていた時、向かいの席に
乱暴に誰かが座った。
「なあ、わざわざこの店で修羅場って
どういう気持ちからなんだ？」
海堂さんに去られた夜に
もう一人失うのかもしれない。
それだって自分の愚かさが招いたことだ、
抗う理由もない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 877人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おはな(プロフ) - ともさん» 彼の変化に戸惑わせてしまったようで、申し訳ありませんでした。その理由を彼の言葉の中に含めたつもりでしたが、やはり力不足でした。努力しようと思います。ご指摘頂きありがとうございました。 (2021年4月3日 18時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 急に紳士な翔くんにちょっと驚きが隠せてないですが（笑）昔話を楽しんでいる2人がとても心地いいです。 (2021年3月28日 9時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» たまりんさん、お返事が遅くなってしまってすみませんでした。年月を経ても想い続けた二人の一途さ、もう一息で願いが叶うところまできました。ホッとしています。辛い時間が長かったですよね。純粋だとシンプルになって飾らない言葉が嬉しい。伝わって良かったです。 (2021年3月27日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - ていくさん» ていくさん、まずは、お返事が遅くなってすみませんでした。この更新分では、彼がひたむきに語ってくれたので私的にはほっとしたところです。時間は要しましたが、饒舌な言い訳と圧倒的な言葉不足、陥り易い間違いに気付けて良かった。この後もお越し下さると嬉しいです (2021年3月27日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - おはなさん更新お疲れ様です。やっと、やっと翔くんと通じ合えた。気持ちではあの頃と同じ様に2人は想いあっていたけど、若さゆえなのでしょうか。どこかでやり直しがきくと思っていたのでしょうか。大人になった今だからこそ飾らない言葉が相手に届くと思いました。 (2021年3月20日 7時) (レス) id: 73cb3c7af7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おはな
| 作成日時：2021年2月7日 0時
