上書き ページ3
だからこそ、海堂さんと会う。
利用するようで心苦しいけど、
初めて私からメッセージを送って誘った。
連盟の事務所に寄った日に待ち合わせて
翔くんと行った小さな洋食屋さんに向かう。
朝から冬の冷たい雨が降り続いていて
日中に気温が下がっていく予報だったから
事務所前からタクシーに乗った。
「Aさんから誘われるなんて光栄だな。
ちょっと浮かれてるんだ、恥ずかしいけど。
いや、そんな難しい顔しないでくれって、
別に俺、勘違いしてる訳じゃないよ。
大丈夫、次のトーナメントの話だろ？」
海堂さんが落ち着かない様子を見せるなんて
それこそ珍しいことだから、見つめてしまう。
すると、見るなと言って体ごと横を向くから
余計に面白くって笑ってしまった。
「案外、意地が悪い」
「知ってるでしょ？私、攻めるタイプよ」
そう、これから再会した翔くんとの時間を
海堂さんと上書きしようと言う根性の悪さ、
元々の私の気質は鈍くても大人しくはない。
自分の気持ちの乱れを直すために
海堂さんの好意を使うと企んだのだから。
翔くん以外の男性には強くいられるの。
思ったままを言えて、嫌われても平気で
下手に関わって面倒に巻き込まれるなんて
有り得ないと思っている。
例外は、智と二宮さんくらい。
先に降りて傘を広げてくれる海堂さんは、
女性の扱いに慣れた結構な大人。
私に構い続けるのは、囲碁のコアな話ができ
親が囲碁棋士という同じ環境にあるからで、
海堂さんも広い意味では幼なじみと言える。
「へえ、居心地の良さそうなお店だね。
俺、こういう感じ、好きだよ」
温かなおしぼりで手を拭きながら
オーダーを決めていく。
「ビーフシチューかけオムライスとか、
男子の夢じゃないか、これにしよう」
さすが実力者は、決断も早いなとか思う。
私は、前にも食べたチキンドリアにして
白ワインもボトルでオーダーする。
だって上書きだもの、迷わないわ。
私たち共通の話題は囲碁しかないから
過去の対局について妙に詳しく解説したり、
ゲン担ぎに何をするか白状したりと
途切れることなく会話は続いた。
そして、ワインボトルが空になる頃、
海堂さんが一瞬、きりっと表情を変えて
私を正面から見た。
正統派の男前に見つめられると
それだけで血が昇って来る。
ワインの酔いと相まって、動悸がする。
「どうしたの？」
止まった会話を促したかった。
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おはな(プロフ) - ともさん» 彼の変化に戸惑わせてしまったようで、申し訳ありませんでした。その理由を彼の言葉の中に含めたつもりでしたが、やはり力不足でした。努力しようと思います。ご指摘頂きありがとうございました。 (2021年4月3日 18時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 急に紳士な翔くんにちょっと驚きが隠せてないですが（笑）昔話を楽しんでいる2人がとても心地いいです。 (2021年3月28日 9時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» たまりんさん、お返事が遅くなってしまってすみませんでした。年月を経ても想い続けた二人の一途さ、もう一息で願いが叶うところまできました。ホッとしています。辛い時間が長かったですよね。純粋だとシンプルになって飾らない言葉が嬉しい。伝わって良かったです。 (2021年3月27日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - ていくさん» ていくさん、まずは、お返事が遅くなってすみませんでした。この更新分では、彼がひたむきに語ってくれたので私的にはほっとしたところです。時間は要しましたが、饒舌な言い訳と圧倒的な言葉不足、陥り易い間違いに気付けて良かった。この後もお越し下さると嬉しいです (2021年3月27日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
たまりん(プロフ) - おはなさん更新お疲れ様です。やっと、やっと翔くんと通じ合えた。気持ちではあの頃と同じ様に2人は想いあっていたけど、若さゆえなのでしょうか。どこかでやり直しがきくと思っていたのでしょうか。大人になった今だからこそ飾らない言葉が相手に届くと思いました。 (2021年3月20日 7時) (レス) id: 73cb3c7af7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2021年2月7日 0時
