６年経ったら�� ページ1
澄んだ冬の夜空。
うっかり手袋を忘れた朝は
指先から身体の芯まで冷気が伝わる。
今日は、父が大きなトーナメント戦の解説を
先週に引き続き任されていて、
その助手にと呼ばれてテレビ局へ向かう。
「寒い…」
つい独り言を漏らすと
唇の動きが鈍すぎて笑ってしまった。
実家からタクシーで千円以内の場所にある、
祖父所有のマンションを格安で借りていて
一番近い大きな通りで父の車を待っている。
２８にもなって、まだまだ過保護が続き
私の自立は、中途半端なままだ。
両親と祖父母にとって許し難い一人暮らし、
そろそろ丸５年になる。
許してもらえるまで大変だったなあと、
懐かしんでいた所に父の車が見えた。
最近、父は若い頃から念願だったドイツ車に
買い換えて得意気に乗っている。
無理しなくても買えたと思うんだけど、
「一人娘が自立するまでは贅沢しないって
お前が生まれた時に決めたんだ。
だからこの車を買えたことに感動してるよ。
考えてごらん、Aのお陰もあるんだから」
父は、間違えなく私に甘い。
それを隠さないものだから、私の方が
ちょっと照れてしまったりする。
きっとそれも面白がっているんだろうな。
今日の囲碁番組は、毎週放送されていて
数字は高くないけど安定した視聴率を保ち、
連盟も力を入れている。
父の軽快な口調での解説は好評で、
ここ最近は、結構な頻度で呼ばれている。
私がお誕生日にプレゼントしたネクタイを締め、
ご機嫌でハンドルを握っているのは、
歌い出しそうな何とも緩い笑顔。
「A、夕飯は、家で食べるんだろう？
お母さんが張り切っていたから
寄って行きなさい。帰りは大丈夫、
お父さんが喜んでマンションまで送るよ」
そうなると思ってたわ。
これも親孝行と言うか、娘の義務と言うか。
「うん、そのつもり。
何作ってくれてるんだろう、楽しみ。
でも一度自分の部屋に帰るね。
泊まれるように支度してから行くわ」
「そうだね、ゆっくりするといいよ。
明日の朝、送ることにしよう」
彼氏かってほど、最近の父は私に甘い。
結構、気分はいいもので。
私の世界から翔くんがいなくなって、
もう６年になる。
穏やかな私生活と緊張の対局とのバランスを
しっかり身に着けて、生きている。
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おはな(プロフ) - mayuさん» mayuさん、楽しみと言って頂けることに安堵しました。そうですよね、素っ気なく離れて行った彼、また近づいてきた彼の真意を書かなくては。時間がかかってしまいそうですけど、またmayuさんに来て頂けるようがんばりますね。 (2021年2月2日 20時) (
レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - さる子さん» さる子さん、こちらこそ感謝の気持ちでいっぱいです。テンポよく更新できていた頃の感覚がなくて、愚痴の様なコメントを残してしまいました。彼の真意に辿りつくまで、しっかり書いていきますね。ありがとうございました。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
おはな(プロフ) - たまりんさん» たまりんさん、少しペースは落ちているところ、コメントを頂きありがとうございます。彼の行動の一つ一つに意味があり狙いがあり、気持ちがあるのはもちろんです。それを何とかお話に乗せられるよう頑張りますね。 (2021年2月2日 20時) (レス) id: 4a84da09b3 (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - おはなさんの書くお話、言葉も、繊細な心の動きも丁寧に書かれていて、面白いです。翔くんは一体どうしたいのか続きが楽しみです！ (2021年1月31日 9時) (レス) id: 862aa3f0aa (このIDを非表示/違反報告)
さる子(プロフ) - ぜんぜん！がっかりなんて！楽しみにお待ちしておりました。おはなさんのペースで更新してけだされば。彼の真意を想像しながらまっていますので。更新に感謝です。 (2021年1月31日 2時) (レス) id: eb4a575f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おはな
| 作成日時：2020年12月25日 23時
