【銀魂】可もなく不可もなく

防犯網と鉄壁の守り ページ44

休日の午後、昼の繁盛時が過ぎ、ひとまず最後の客を見送った私は、机の上を片付けながら息をつく。





「ーーやっぱりいませんでしたよ、彼女」

「ん？」

「銀さん」



店長は、鼻歌を歌いながら作業をしていた手を
とめた。「へえ、」と呑気そうにそんなことを
言うが、大体、私をけしかけたのはこの人だ。





「いつも穏やかでマイペースなもんだから、てっきりモテる男の余裕ってやつかと思っていたよ」

「穏やかでマイペース・・？」



その言葉には違和感を覚えずにいられない。
全力で首をかしげる。あの人は、マイペースという
のではなく、動くのが面倒だから自然とペースが
落ちてるだけではないだろうか。穏やかに見えるのは、いつも眠いってだけじゃないだろうか。


私の様子に、ケラケラと笑いをこぼした店長は
からかうように口を開く。







「でもそれなら、ーーーAちゃんにも
チャンスがあるね」





まだそんなこと言ってるのかと呆れ顔を向けた私に
店長は怯むこともなくニヤつきを増した。







「だって、嬉しそうな顔してるじゃないか」


「えっ、」





机を拭いていた布巾が手から落ちる。
咄嗟に覆った顔は、そんなに嬉しそうだろうか。




「今日はいつもより機嫌がいいと思ってたんだよ。
やっぱり銀さん関連だったんだね」

「なっ、」

「照れなくていいって。年の功ってやつだよ。
わかっちまうんだ」


「店長・・！」




そんなことを言われてしまえば、
顔の熱が一気に上昇するのは避けられない。

完全に店長に主導権を奪われた私は、反論する隙を
失ってしまい。ーーおまけに説得されかけている。





(・・嬉しそう、なのかな)



それはつまり、口元が緩んであるということか。
目元が笑っているということか。

とにかく、上機嫌にみえるらしい。









「・・・・銀さんは、いい人ですもん」

「そうだね」

「いざという時はさりげなく優しくて」

「うん」

「一緒にいると、落ち着きますし、楽です」

「そうかい」




ぽつりぽつりと白状した私に、店長は優しく
相槌を返してくれる。

確かに言葉にすると嬉しくて。
すっきりして、気持ちが楽しくなった。


あぁ、これが年の功というやつか。
この人は見事に私の鉄壁の守りを打ち破り、
防犯網をくぐりぬけた。









(ーーー私、好き、なんだ。銀さんのことが)

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