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｢………｣
この状況を理解するのに時間がかかる。
１０秒ほど頭も口も呆けたあとハッと再起動した。
私と話すのは嫌いじゃないって言った？
あの太一が？……いやまさかね。あれか空耳か。
｢私と……え、なんだって？｣
｢Aさんと話すのは嫌いじゃない｣
ああオーケー。空耳じゃなかった。
｢そ、うですか｣
｢ん。というかむしろ楽しいかも｣
言葉を続ける太一の目は真剣なままで、
なんだか目の奥、頭の中まで見抜かれているよう。
こんな目をするんだ。こんな顔で私を見るんだ。
いつもイヤな顔ばっかりするのに。
ぎゅうっと痛いくらいに胸が絞られる。
掴まれた腕が熱く感じる。
｢それは、よかった…です｣
｢てかさっきからなんで敬語なの？おもしろ｣
先ほどの表情とは一転して、目を細めながら太一が笑う。
あっ待って、これは、やばい。
その笑顔をみた瞬間、今までで1番心臓が跳ねるように大きな音を立てた。
ぼとんっ
同時に手に持っていたペットボトルを地面に落とす。
ぱっ、と握られていた腕が離された。
｢……あ、｣
身を屈めてそれを拾おうとしたとき、
太一も拾おうとしたのか同じように身を屈めた。
かなりの至近距離になって、またも心臓が大きく跳ねる。
｢なにやってんですか｣
｢ひっ！？｣
つん、とお互いの手が触れかけて。
自分でもびっくりするくらいの声を上げては、
勢いよく手を引いてしまった。
顔が熱い、胸が苦しい、呼吸が浅い。
自分が動揺しているのがハッキリと分かる。
｢Aさん？｣
太一が驚いた表情でゆっくりとこちらを見る。
や、やばい、やっちゃった……
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作者名：nome. | 作成日時：2017年2月12日 0時
