鶴が十三羽 ページ16
「悪いな三日月、少し疲れたから寝てくる」
三「あい分かった、初の出陣もしたからな、ゆっくり休むといい」
「嗚呼、有難うな」
俺は三日月から離れて
自室へと向かった
自室と言っても光忠や倶利伽羅と同室だが
部屋の襖を開けると誰も居ない
光忠は台所で料理を作っていたし
倶利伽羅も何処かで時間を潰しているのだろう
まぁ好都合だ
こういう時に寝れば問題ないだろう
じゃあゆっくり話そうや『鶴丸国永』
目が覚めた時には
俺が鶴丸国永に成った時の
あの真っ暗な空間だった
A「…堕ちたのかお前」
鶴「…済まないな、押し付ける形になっちまって」
A「じゃあ『成って欲しい』と頼んだのはやっぱり…」
鶴「勿論、堕ちると分かっている状態で新たな主君の元へは行けないだろう？」
A「じゃあ俺が死んだのは好都合だった訳か」
後ろに居るのは分かっているのに
何故か振り向けない
自分でも分かっているんだ
後ろに居るのは普通の鶴丸国永ではない
真っ黒に堕ちてしまった鶴丸国永なんだと
鶴「俺の事、見ないのか？」
A「見たって、この真っ暗な空間で真っ黒なお前を見付けられる自信が無い」
鶴「そう、だよな…」
声を聞くだけで悲しんでいるのが分かる
何に悲しんでいるのか
光忠や倶利伽羅に会えない事か
将又、真っ黒になった自分を
他人に見付けてもらえずに
このまま消える事にか
A「堕ちなければ直ぐに見付けられただろうにな…」
鶴「なぁA」
鶴丸国永が俺の名前を呼ぶ
俺は反射的に振り返るが
真っ暗な空間に溶け込んでしまったアイツを見付ける事は矢張り出来なかった
鶴「これからは俺として生きていく…だからAの中に俺の記憶を入れ込んだ、勿論人間だった頃の記憶は何時しか消えてしまう」
やっぱり消えるのか
覚悟はしていたが
親友の事を忘れるのは悲しいな
鶴「けど、お前自身は俺自身に完全に成る事は叶わない」
A「どういう事だよ…」
鶴「結局お前は人間で俺は神様だったって事だ、じゃあなA、俺はもうお前に会えないが、光坊と倶利坊…それと三日月に宜しくな！」
姿どころか顔も見えないのに
なんとなくだったけれども
鶴丸国永の顔には涙が伝っていて
悲しい笑顔で此方を見ている様な気がした
俺はアイツに何もしてやれない事に
酷く後悔を覚えた
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