第94話 写真 ページ3
何もかも包み込んで呑み込みそうな夜空の下｡
「……それじゃあ､また明日」
「はい!おやすみなさい」
笑いあって､頬にキスを落として､落とされて｡
幸せをカタチにして送りあう｡
手を振って､彼女が家に入ったのを確認してから俺はバイクに跨った｡
ゴーグルをつけて､ヘルメットを被り直す｡
心地よい音を鳴らして､
バイクはスピードを上げていった｡
俺は見慣れた道を走る｡だが､ふと気になりだした車のエンジン音｡
それは､数メートル後ろを走る車のモノだった｡
俺を尾けてきとる……？
ほぼ無意識下で俺はバイクのスピードを上げる｡
それに合わせるようにその車もスピードを上げた｡
ハンドルを切って､ひねって､切って更にひねる｡
加速するバイク｡気持ちのいい横Ｇの感覚｡回転する思考｡頬を突き刺す冬の風｡叫ぶように轟くエンジン音｡サイドミラーに映る離れ始めた乗用車｡
車の中の黒い､人影｡
移り変わる風景を横目に､俺はまたハンドルを切った｡
それを繰り返すうちに､いつの間にかバイクのスピードは制限速度ギリギリまでになっていたが､車が追ってくる気配はなかった｡
傾くバイクで路地を抜け､いつもとは違う道で俺は自身のマンションに着いた｡
バイクをドリフトさせて停止する｡素早くゴーグルを上げ､来た道を振り返るが､やはり追ってきていた車は捲いたらしかった｡
「……クソ野郎」
俺は呟く｡
今のは“アイツ”だ､間違いなく｡
ぎり､と嫌な音を立てて俺は歯軋りをした｡
愛車を定位置に停め､俺は自分の家のドア前にたどり着いた｡
ドアの横のポスト｡中に入っていた茶封筒を手に取り俺は家の中へ入った｡
荒んだ心を宥めながら電気をつけ､封筒を開けながら上着を脱ぐ｡
……思わず舌打ちをするのを我慢した｡
茶封筒の中身は数十枚の写真だった｡
それは全てひとりの女性､女子高校生のもので｡
泣いている姿､頬に血の出ている傷の姿､怒っている姿､怒られている姿､ひとりで蹲る姿｡
似たような写真が数十枚｡パラパラと手の中からそれらは落ちていく｡
その子は見たことがあった｡面影があった｡
俺の､愛しい､愛してやまない彼女｡
―――その写真の子は､全て､すべてAの数年前の姿だった｡
俺の手が震える｡
怒り､悲しみ､不安､焦燥､葛藤､後悔､自責､恨み､嫌悪｡
「くそっ……!」
……俺はまだ､何もできない｡できていない……!!
俺はぐしゃりと写真を握りつぶした｡
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作者名：アンバ | 作者ホームページ：ないと思ったか！……ないんですよねぇ
作成日時：2022年7月23日 17時
