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「俺は二度も好きな女を失いたかねェんだよ」
耳を疑った。
けど直前に落とされた唇や少し赤い頬。
現実だと気づくのにそんな時間はかからなかった。
『同情、してる?』
「ンなわけあるか」
『私はミツバちゃんとは違うよ?』
「刀振り回してる女とアイツを一緒になんざしてねェよ」
『人斬りまくって、血も被って…』
「俺もお前も似た者同士だろ、何を今更」
本気だ。
この人本気で言ってるんだ。
それが分かれば視界が滲んで嗚咽が漏れた。
お世辞にも可愛いとは言えない泣き方に情けなくなった。
それでも十四郎ちゃんは何も言わず私の背中をさすってくれる。
少し落ち着いた頃、顔を上げて十四郎ちゃんを見れば口角を上げた。
「すっげぇブスだぞお前」
『なら離せニコチン中毒』
「離さねェよ。お前ェはずっと俺の補佐官しとけ」
『他に立場はくれないんですか?』
はぁ、なんて態とらしい溜息を吐けば着流しの袖で私の目元を拭って笑う。
「惚れた女にゃ幸せになってもらわねェと困んだ」
『だから?』
「…死ぬ迄側にいろ、クソガキ」
『死んでからも一緒にいてやんよ、馬鹿副長』
悪態を叩き合うお互いにどちらともなく吹き出した。
けど少し違うのは縮まった距離と私の腰に回された腕。
関係が変わったのは言うまでもなかった。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年10月26日 11時