この世界の片隅に4【土方十四郎】 (ページ30)

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百八十ページ30

真っ赤な池と、ピクリともしない男が何十人と床に転がっているのが視界いっぱいに広がる。

後ろを向けば旦那の方でパタリと男が倒れた。

あれが最後か、と高橋の方へ顔を向ける。

(ーーーなんの違和感だろう、これは)

気持ちの悪い何かが胸の中を侵食した。
それは旦那も同じだったようで、男に対して睨みを利かせていた。

『…なんでこんなあっさりやられたんだよ』

「なんのことかね」

この場に来てもしらばっくれるソイツに舌打ちが漏れた。
早いとこ叩き斬りたくて刀を握り直せば、それは旦那に止められた。

少し高い相手の顔を見上げれば仕舞えと言わんばかりの目をして私を見下ろすもんだから、従うしかないかと鞘へとそれを押しやった。

「太刀筋がその辺の浪士どもとどう見ても違ェだろ」

『旦那も感じてたんですか』

「嗚呼。お前ェからその辺のとは違ェとは聞いちゃいたが確かに違ったな。剣に慣れてる感じがあった」

「御二方ともよく見える目をしてらっしゃる」

ニヤリと、馬鹿にしたような笑みを浮かべれば声を上げて笑い出す。

その声に旦那の目が険しくなった。

…そういえばさっきから感じてる違和感はなんなんだろうか。

浪士達はうちの隊士並みには使える刀の使い方をしていた、けれどこんなあっさりとやられた。
私と旦那は剣は扱える方だ。旦那なんて私より使える、なんでかは知らないけど。そうだとしてもこの人数であの筋だ、傷がここまで浅く終わるなんておかしい。

でもまた別の。

違う違和感がそこには存在していて。

…ん？

『…高橋、飯島はどこ行った』

私と旦那はその違和感に気付くのが遅すぎた。