この世界の片隅に4【土方十四郎】 (ページ40)

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百九十ページ40

十四郎ちゃんの手を借り、蘭を見下ろすように立つ。

余裕そうな顔に溜息が漏れた。

どんな状況下でも崩さないその顔の下に何があるのか、そこまではわからない。けれど、少なくとも悔しくはあるのだろう。苛立ちを隠せぬのか膝が小さく揺れていた。

『仇だか、なんだかしんないけどさ。そろそろ兄様が悲しむよ？』

「…は？嬢ちゃまに何が分かるのですか」

『え？ンなもん知るかよ。知りたかもねーし』

私は兄様じゃないしあんなことしたアイツの気持ちなんて計り知れないし、というか測りたくもないし。
正直知ったこっちゃない。

兄様の一番近くにいた蘭が私以上に理解してるのなんて当たり前だし、だからって私がそれを汲み取るかと言われたらそういうわけじゃない。

蘭へと一歩歩みを進めれば彼女は眉を寄せた。

『そろそろさ、終わりにしない？』

「何を…」

『私を斬っても兄様は帰ってこねえよ』

「でも…！！」

原田とザキちゃんに声を掛け蘭の拘束を解くように言えば二人は目を泳がせるだけで離そうとはしない。命令だということを目で告げるようにじっと見つめれば渋々拘束を解いた。

二人が離れたのを見て十四郎ちゃんの腰元から刀を引き抜き蘭の方へと投げた。

「A！てめ『黙ってろ』

「…わーったよ」

肩を掴んだ十四郎ちゃんの手が離れたのを確認してから私は口にした。

＂斬りたきゃ斬れば？＂

と。
目を丸くした蘭は意味がわからないと言いたげにこちらを見つめる。

さっき発した言葉通り、斬りたきゃ斬ればいい。のに蘭は一向に刀を手に取る気配がない。俯くように伏せた顔と少し震える肩。

地面に雫が落ちた。

「斬っても…きっと、失った事を埋める事なんて出来ませんね」

『蘭、貴方の処分は上が検討する。だからどうなるか分からない。けど、生きて。兄様の為にも』

目線を合わせ背中をさすってやれば声をあげて泣いた。

何度も、何度も兄様の名前を呼びながら。

いつも笑みを浮かべていた彼女。
何も寄せ付けない余裕の仮面が遂に崩れた。

その先は、たった一人の男に恋い焦がれた女子だった。