16話 夕日を透かすゴンドラの中で〜パックの発魔期 4〜 ページ17
それからもたくさん遊び、気がつけばあとひとつ乗れば終わり、という時間になった。
いくら魔法で生み出した氷とは言え、複雑な構造のため、時間が経つと耐久力も心配になってくる。
明日もまた遊ぶことは出来ないだろう。
「Aさん、最後にあれ、乗りませんか？」
オットーが指したのは、逆光を浴びて影になっている大きな氷の観覧車。
「……いいよ」
刹那のためらいを見せながらも、提案を受けるA。
Aは疲れてしまったのか、昼間のようなテンションはどこかに行っていた。
乗り込んだゴンドラは、夕日の光でキラキラと煌めいている。
氷を透かすオレンジ色の太陽は、ふたりの横顔も照らし出していた。
限定的とはいえ、一緒に眠るような仲だ。
今更密室にふたりきり、という事実に緊張したりはしない……はずもなく。
今のところ、ずっと無言が続いている。
既にゴンドラは三分の一を回っているが、双方一向に口を開く気配はない。
「……ねえ、オットー」
不意に名前を呼ばれ、わずかに心拍数が上昇するオットー。
「な、なんですか？」
声が上擦ってしまう。
「世界って、こんなに綺麗だったんだね。……こんな気持ち、もうずっと忘れてた」
(最後に気付けて、良かったな)
なんだからしくもないことを言い出すAに困惑するオットーは、何も言うことは出来なかった。
それでも、Aは続ける。
「私ね……いや、やめとく。今日は私に付き合ってくれて、ありがと」
感謝を伝えるAは、どこか儚くて、知らぬ間に何処かに行ってしまうのではないかと思うほどに頼りなく見えた。
希薄な存在を確かめるように、オットーはAの手をそっと握る。
Aの身体はビクッと震え、身をこわばらせたが、すぐにオットーに委ねるようにふっと力を抜いた。
オットーはもうこのまま想いを伝えてしまっても良いのではないかと思った。
だが、ここで言ってしまえば雰囲気に流されてしまったようにも思えてしまう。
それを彼のプライドが許さず、結局ゴンドラは元の場所に戻ってきた。
「楽しかったね！」
「はい、僕も楽しかったです！」
ふたりの笑顔は、お互いの瞳にとても眩しく映った。
◇◇◇
朝、目を覚ましたオットーは、強烈な違和感を覚えた。
そして、すぐにその正体に気づく。
いない。
Aが、いない。
確かに昨夜、一緒に眠ったはずだ。
結局その日、Aは見つからなかった。
17話 行方不明のメイド様→←15話 氷の遊園地〜パックの発魔期 3〜
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あくる(プロフ) - そんな事を言って頂けて、感謝感激です！ またちまちまと番外編を書こうと思っていますので、よろしくお願いします！ (11月1日 18時) (
レス) @page28 id: 64a42a1344 (このIDを非表示/違反報告)
作者くん！(プロフ) - 神ですね、この作品 (11月1日 17時) (レス) @page28 id: 36c939bd27 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あくる | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/03240906ak1/
作成日時：2023年7月2日 1時
