陸拾漆頁─孤影悄然 6─ ページ29
「お礼にこんな錠は壊してあげるネ。外に出してあげるのは難しいケド、ボク達が中に入ることは出来るんだヨ」
「え、でもそんなことしたら...」
眉を下げて此方を窺う。
他人を気遣う優しい子。
異能さえ無ければ、もしくは違う異能であればきっと夢野君が此方側に来ることなど無かっただろうに。
彼と私の小さな共通点。
それだけで私情を挟むには充分すぎる理由だった。
『君はそんなに心配しなくても大丈夫。もし仮に怒られることになったとしても君にはなんの責任も無い』
私は再度彼に手を差し出す。
『改めまして、こんにちは。私は里見。君の名前を教えてほしいな』
*
「ねぇねぇ!そのぬいぐるみさんはお姉さんの異能!?」
どちらに転ぶか判らない、フルールのあの対応。
結果としてそれは正解だった。
喋り動き回るぬいぐるみは夢野君の好奇心をくすぐり、その想いの矛先は不思議生物を連れてきた私へと向けられた。
『私のじゃないよ。そもそも私は異能なんて使えないから』
「え、それじゃあこの子は誰が作ったの?」
なんとも返答に困る質問をする夢野君。
その答えを知らないわけでは無い。
しかしあまりにも機密性が高く、流石に会って数分の少年には教えられなかった。
そんな私の内心を悟ってか部屋の中を探索していたフルールが彼の足元へと歩み、片手を顎に当てて可愛らしく首を傾げた。
「ボクのこと知りたいの?キミは誰にも云わないって約束出来る?」
「うん!絶対に誰にも云わない!」
力強い目と芯の通った声。
既にそこには一切の暗さは感じさせない。
ほんの数分間にも関わらず、それほどまでにフルールは彼の興味を引いていた。
「ふふっ、良い返事。ボクはね、遠い遠い場所から来たんだヨ。何か楽しいことは無いかな〜ってネ。そしたらこんなに素敵な子を見つけちゃった」
「えーっ!里見お姉さん、テレビで見たあの女の子みたい!」
夢野君は晴れた顔で前のめりになり、キラキラと輝く目を此方に向ける。
...きっと、中学生くらいの女の子が別の世界から来た妖精と一緒に世界の平和を守るあれのことを云っているのだろう。
残念ながら君の目の前にいる人間はそんな綺麗な世界では生きていないが。
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煉華(プロフ) - あきさん» あきさん、ありがとうございます!久しぶりすぎてどうかなと思ったのですが、アニメ放送開始したからか見てくださる人が多くて安心しました。頑張ります(^^*) (2023年1月27日 21時) (レス) id: 4710ee5a2a (このIDを非表示/違反報告)
あき - 続編おめでとうございます!ちょうど先週辺りから読み始めたのでタイミングが良かったです笑これからも頑張ってください。 (2023年1月26日 21時) (レス) id: 3fb64841ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 20時