【ツルネ】この薬指に…【藤原愁】

４射 ページ6

入学式の為、数日前に入った寮を出て、下駄箱前の掲示板に貼られているクラス割を見て、藤原愁は愕然とした。
自分のクラスを確認したあと、あるはずの名前を探したが、５クラスある全名簿を見ても『八坂A』と言う名前はどこにもなかった。

すぐさまポケットからスマホを取り出し、『A』とかかれた番号をタップしたが、数回呼び出し音が鳴ったあと、『只今電話にでることができません』と機会音の返答があった。

入学式が終わっても、HRが終わっても、すきあらば何度も同じ様な操作を繰り返したが、返答は同じだった。

『只今電話にでることができません』、これは着信に気づいていて出られないときや出たくないときになる返答だ。抑えようのないイライラが愁を襲った。

お互いがオムツをしている時期から愁はAの事を好きなんだと自覚している。その証拠に母親達が撮っていた写真をみると、どんなときでも愁はAの方を見ていた。
去年の大会後の女子弓道部での事件後、Aは不登校になった。
高校に上がれば心機一転、Aは入学式に参加すると疑っていなかった。
Aのお父さんが高校の入学祝いを何にするか悩んでると言っていたので、Aは外部受験したのだろう。
自分はてっきり桐先高校に進学すると、その進学祝いなんだろうと思っていた。Aのお父さんの東京勤務が決まって、Aは桐先の女子寮に入ったものだと思っていた。

手の届くところにAがいないことに、悲しみとイライラが愁を満たしていく。

弓道部に顔をだし、中学の頃の先輩等に挨拶をすませた愁は足早に寮にもどった。

乱暴に部屋のドアを閉めると仰向けにベッドに身体を投げて、スマホのアルバムのフォルダを開いた。
フォルダにはたくさんのAの写真が納められていた。

自分の息子より２日遅く産まれた親友の娘を、自分の息子の婚約者にする理由は、Aの家柄にあった。
地元に根付く由緒正しき神社の神主を代々務め、その歴史は平安にもさかのぼるという。
そして、Aの父親は今や外務省の外務事務次官。父親は親友の出世を確信していたのだろう。

女子の方が早熟と言われてはいるが、自分の成長が他の男子よりも早かったお陰か、Aがほかの女子よりも遅かったせいか、Aは自分にとって、いつも小さくて守らなければならない絶対的存在だった。
だから、Aが弓道を始めたときいて、自分よりも強くなられるのが嫌で、父親に弓道を習いたいと言った。

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