21射 ページ23
湊の弦音が帰って来た。
まだ完璧じゃないが、湊独特の少し高音の金属音のような弦音が…
Aは矢道を挟んだ反対側にいる愁を見た。
愁は目を閉じ湊の弦音を聞き、目を開いてしっかりを湊を見据えた。
自分が高みに上るに必要な人間が湊だと再認識して、観客席に座るAを見た。
Aも愁を見ていたため、2人の視線が矢道で絡み合う。
Aはニッコリ笑うとゆっくり立ち上がり、観客席をそっと出ていった。
あの二人は、きっと切磋琢磨してお互いに高みにのぼっていくだろう。
じゃあ、私は？
厳しい祖父はもうこの世にいない。
自分に教えをくれる先達は自分の回りにはいない。
私はここから動けずに高みへのぼる二人の背中をただ見ているだけ。
ずっとこの場所に置いていかれるだけ。
Aは手を握りしめた。
爪が皮膚に食い込んでいく。
どうしたらいいのか分からなくて、歯痒くて、初めて愁と湊が羨ましいと思った。
どれだけそうしていたのか、Aを避けるように他校生がバス停や駅への道を下っていく。
「A！ここにいたのか！妹尾と花沢が心配してたぞ！急に席を離れたって…っ!?」
男子部員の激励が終わった雅貴がAの肩を叩いてギョッとした。
まだ、Aが幼い頃、雅貴の後をついて回り、置いていかれては泣き、転んでは泣いていたA。
しかし、泣き顔は見せたくないと目に一杯に涙を貯めはするが、流すことは珍しかった。
そのAが静かに、けれども大粒の涙をハラハラとこぼしているのだ。
雅貴がそっとAの前に回り込み、ギュッと抱き締めてやると、Aは雅貴の背中に腕を伸ばし、胸にに顔を押し付けた。
雅貴の匂いが鼻から抜ける。愁とも湊とも違う大人の匂いがAの嗅覚を一杯にする。
雅貴はAの涙が止まるまでずっと頭をなで続けていた。
「どーした？A。赤ちゃんに戻っちゃったか？」
雅貴はからかうような口調でAの名前を優しく呼ぶ。
Aにはその態度が嬉しかった。
「…愁と湊が私を置いてっちゃう。」
小さかったがその声は雅貴の耳に届いた。
雅貴はまたギュッとAの体を強く抱き締めた。
自分の従妹はなんて自己評価が低いのだろうかと苦笑いした。
確かに祖父の方針でAが人前で弓を引く場所は限られていた。
桐先に入るまでは祖父と二人で練習していた。
同世代の人間が弓を引く姿なんて桐先に入って初めて見たのだろう。
Aには今まで好敵手と呼ばれる人物がいなかったのだ。
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ミラ(プロフ) - とても素敵な作品でした！続きが気になります！！無理せず作者さんのペースで頑張って下さいね(*^^*)楽しみにお待ちしてます♡ (2022年8月26日 3時) (
レス) @page25 id: 7385d704d3 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 更新頑張ってください。応援しています。とても大好きで楽しく読ませてもらっています。 (2019年11月24日 2時) (レス) id: d1cd54c5d7 (このIDを非表示/違反報告)
桜花院 千桜(プロフ) - お大事にしてください！本当にMAXに辛い時はパソコンやスマホ等の画面が見れませんよね…早く治るように祈っています。 (2019年1月21日 9時) (レス) id: a0e7a7bf7a (このIDを非表示/違反報告)
狐花 - コメント失礼します。とても面白くてお気に入りの小説で、楽しく読ませてもらっています。これからのお話がどう進んでいくのかとても楽しみです。無理のないよう、更新頑張ってください！楽しみにしています。 (2018年12月17日 16時) (レス) id: f05b151338 (このIDを非表示/違反報告)
コサメユキ(プロフ) - 終夜さん» ご指摘ありがとうございます。一応、中盤からマサ湊要素が出てくる予定でしたが、出てくるまで外しておきます。 (2018年12月9日 13時) (レス) id: e3d25c6c83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コサメユキ | 作成日時：2018年12月3日 22時
