16射 ページ18
愁は部屋に入るなりAを強く抱き締めた。
Aはただ愁の背中に腕を回し、愁の気が済むのを待った。
「ごめん。」とAを離した愁はAをソファーに座らせ、自分もAの横に腰を下ろした。
「風舞にいたんだな。誰も教えてくれなかった。」
「うん。」
「湊と静弥と一緒に受験したのか?」
「ううん。入学式で静弥が新入生代表なのを見て初めて知ったの。クラスメイトが二人と小学校が一緒で仲がよかったみたいで、湊が弓道部に入るなら入部するって言ってみたら、湊が弓道部に入ってくれて。」
「うん。Aが湊を弓道に戻したんだな。でも湊はAがいなくても…」
「弓道に戻ってた。でしょ?」
愁は頷く。
それからAの手を握った。
「A、何で桐先に進学しなかった?」
Aの目をじっと見つめる愁の顔を見返して、喉が鳴った。
「愁…、湊が早気になったとき、どう思った?湊に勝ったって思ったんじゃない?ざまぁみろって思ったんじゃない?そんな愁、見てられなかった。産まれて初めて愁のこと『嫌い』だって思ってしまった…」
Aの口から自分のことを嫌いだと出て来て愁は驚きの顔をした。
「私が落とされたとき、愁は私から目を離してた。それで良いと思った。でも、愁は違った。目を離してなければ私が落ちなかったと思ってた。」
愁の手を握るAの掌に力がこもる。
「違うよ。愁が見てても、私は多分落とされてた。他の部員が私のことよく思ってなかったのは知ってたから。湊も静弥も知ってたから私と一緒にいてくれたの。二人が私を励ましてくれてたの。」
愁は驚いた。早気になった湊をAと静弥が慰めていると思っていたのに、本当はAを守るために湊と静弥がAのそばに寄り添っていたのだ。
「愁のあのときの射は見てられなかった。完全に冷静を見失ってた。これじゃ愁が、愁の射がダメになるって思った。私がいないほうが愁は私に引っ掻き回されなくていいんじゃないかって思ってお父さん達に頼んで外部受験したの。」
「一緒にいられなかったのか?」
「うん。私が愁といたら愁は私の心配ばかりして、愁の理想の射からかけ離れてたでしょ?」
愁はAの肩に手を回しギュっと抱き締めた。
「そうかもしれない。」
Aは愁のふんわりした髪を指に絡めた。
「俺はまだ高みに行きたい。そのためには…」
「私は必要ない。必要なのは湊。」
愁はAの首もとに顔を埋める。
「今の愁に必要なのは湊。」
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ミラ(プロフ) - とても素敵な作品でした!続きが気になります!!無理せず作者さんのペースで頑張って下さいね(*^^*)楽しみにお待ちしてます♡ (2022年8月26日 3時) (レス) @page25 id: 7385d704d3 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 更新頑張ってください。応援しています。とても大好きで楽しく読ませてもらっています。 (2019年11月24日 2時) (レス) id: d1cd54c5d7 (このIDを非表示/違反報告)
桜花院 千桜(プロフ) - お大事にしてください!本当にMAXに辛い時はパソコンやスマホ等の画面が見れませんよね…早く治るように祈っています。 (2019年1月21日 9時) (レス) id: a0e7a7bf7a (このIDを非表示/違反報告)
狐花 - コメント失礼します。とても面白くてお気に入りの小説で、楽しく読ませてもらっています。これからのお話がどう進んでいくのかとても楽しみです。無理のないよう、更新頑張ってください!楽しみにしています。 (2018年12月17日 16時) (レス) id: f05b151338 (このIDを非表示/違反報告)
コサメユキ(プロフ) - 終夜さん» ご指摘ありがとうございます。一応、中盤からマサ湊要素が出てくる予定でしたが、出てくるまで外しておきます。 (2018年12月9日 13時) (レス) id: e3d25c6c83 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:コサメユキ | 作成日時:2018年12月3日 22時