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「んっ??」
思わず隣のフロアの営業二課へ目をやると、薮課長はブスリと不機嫌な顔で書類にハンコをついている。
こちらを見ることはない。
本日19時、春夏秋冬
契約履行予定
メールにはたったこれだけが書かれていたが、私にはすべてが了解できた。
先週、私は薮課長に替わって、伊野尾商事のランチ接待に出席した。
薮課長は代役を私に押し付けるお礼として、私となっちゃんを、妖しい二人――薮課長と八乙女主任との食事に招待する、と約束していた。
『春夏秋冬』は会社近くの老舗のフレンチで、女二人ではなかなか敷居が高い。
そこそこ本気の接待で使うようなお店だ。
うん、いいセレクトしてるわ。
私は「合格」と一言だけ返信した。
18時40分。
社内の女子トイレの鏡の前に、私となっちゃんはいた。
「きゃー、かちょー、どおしましょー。
リップの色、おかしくないですかっ」
なっちゃんは目を輝かせながらメイク直しに余念がない。
髪もふんわりとアップにして、日中よりも華やかな雰囲気だ。
私はどうしようもなくて、少しだけリップを塗りなおし、パウダーをはたいた。
「薮課長も人が悪いですよねっ。
誘ってくれるのなら、前日くらいには言ってほしいですよ。
そしたらもう少しカワイイ服で出勤してきたのに……」
アイライナーを入れつつ、なっちゃんはぶつぶつ言った。
「どのみち、薮課長も八乙女主任も、私らには目もくれないんだよ?
合コンじゃないんだから」
冷めた私の言葉に、なっちゃんは肩をすくめた。
「そりゃあ、あの二人はそうでしょーけど。
ひょっとしたらノンケのイケメンと、出会うかもしれないじゃないですか」
腐女子だけど、常に前向きななっちゃんを、私は心から尊敬した。
なっちゃんは言葉を続ける。
「今日、八乙女主任、昨日とスーツ同じでしたね。それに眼鏡でしょ。
かちょーのお説通り、光が、薮の家にお泊りしたんだと思いますよ〜。
そんでもって、昨夜は一晩中ピーーしてたんですよ。
そうに違いありませんっ」
力強く断言したなっちゃんは、うひひひ、と可愛い顔には似合わない笑い声を立てた。
ご招待されているんだから、時間は正確に。
私たちはきっちり19時に店についた。
受付の店員さんは、すぐに席へに案内してれた。
豪奢なインテリアが女心をくすぐる。
あー、今日はワインも飲んでやる。
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冬の勿忘草(プロフ) - 読み返したくなるお話し。何度でも食べられる^^*うまうま 始まった頃が懐かしいです…☆ (2019年5月25日 22時) (レス) id: d769e67f4c (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» あい様、気づけば月末です。いやー、みんな頑張った…やりきりました…。作品を大好きと言っていただけてホントに嬉しいです★温かくこれからも見守ってくださいませ。ありがとうございます。 (2018年5月30日 21時) (レス) id: 0d848a077f (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - しろくまさんの作品が好きすぎて 、やぶひかも好きすぎて、ベストコンビ大賞も1位を取りたくて、同じようなコメントばかりしてごめんなさい!しろくまさんの作品はどれも大好きです!これからもよろしくお願いします。 (2018年5月29日 23時) (レス) id: 47fe4b83c6 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あいさん» わーんごめんなさい。下はあい様へのレスです〜。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - あい様、こちらにもありがとうございます。残り日数が少なくなって、焦り気味でございます。オマケのお話しはやぶひか担みんな大好きナポリタン★一度は書きたかったネタです(笑)reject 本編もまた必ず書きます!よろしくお願いいたします。 (2018年5月29日 20時) (レス) id: f22c03c885 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろくま | 作成日時:2018年2月22日 16時