お風呂【大商店の息子yb×奉公人hk】 ページ12
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ひかるの小さい手が動くと、魔法のようにいろんなものができる。
花冠、笹舟、水車、竹蜻蛉。
「これ、あげる」
しゃがみこんだひかるが差し出してくれるものは、不器用な俺には作れない美しい玩具ばかりだった。
「すげぇ。ひかる、次は竹笛作ってよ」
「竹笛はまた今度。おれ、お風呂の水汲みしなきゃ。やぶもお勉強しなきゃダメだろ?」
「勉強ねぇ……俺、ひかるとずっと遊んでいたいなぁ」
「ふふ、おれがずっと遊んでいたら、やぶ、お風呂にはいれないよ?」
「えー、それは困るな。ひかるの焚いてくれるお風呂、すごく気持ちがいいんだ」
──裏庭の片隅、風呂場の横の焚き口が俺とひかるの秘密の遊び場だった。
風除けの竹垣が俺たちを大人から隠してくれた。
ひかるは擦れた着物の裾をはたきながら立ち上がる。
「宏太坊ちゃん、失礼します」
丁寧に頭を下げたひかるはもう『俺だけのひかる』じゃなく、奉公人のひかるの顔をしていた。
俺は薮商店の跡取り息子、ひかるは商店の奉公人。
身分も違えば立場も違う。
俺たちが遊んでいることは二人だけの秘密だった。
……十一の時から薮商店の奉公に上がっていたひかるは、内向きの仕事を手伝っていた。
内向きの仕事とは言え、賄い飯の用意だけでもてんてこまいだ。
その上、ひかるは店主家族の風呂を焚く役で、風呂のために水汲みから火焚きまで良く働いた。
ひかるが風呂を焚いてくれるようになってから、湯加減が完璧で、ついつい長風呂してしまう。
風呂に浸かりながら鼻歌混じりに、「ひかる〜、いい湯加減だよ。一緒に入ろうぜ」なんて揶揄うと、壁の向こうから「そんなことできるわけないだろ!」と真面目に怒ってきた。
「えー、本当は一緒にひかるも入りたいだろ?」
風呂場の小さな窓から外を伺うと、焚き口にしゃがみ込み、捻り鉢巻姿のひかるの痩せた背中が見える。
「なぁ、ひかる〜」
呼びかけてもひかるはこっちを見てくれない。
相手してくれないならイタズラしちゃうからな。
湯を掬ってパシャッと背中に掛けてやった。
一瞬、ビクリと肩が動く。
俺の大好きな舌足らずの声で怒ってくれることを期待していた。
だが、ひかるはこちらを見ることなく、「おれは奉公人だよ。やぶとお風呂なんて入れっこない。だからせめていいお湯加減にするんだよ」
静かな言葉に、今更ながら俺は思い知った。
ひかるは俺のものじゃない。
薮商店のものなんだ。
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しろくま(プロフ) - ◇さん» ◇さま、コメントありがとうございます。お褒めいただき嬉しく思います。今日は2人の結婚記念日でもあります。ステキなクリスマスをお過ごし下さい。 (2022年12月25日 7時) (レス) @page49 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
◇(プロフ) - 最終話のタイトル回収があまりにも美しくて…。執筆お疲れ様でした!次回作も心待ちにしております (2022年12月24日 2時) (レス) @page48 id: 3e4ffd633a (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - 9さん» その涙はひかちゃんのハンドタオルで拭いて差し上げます🥰 (2022年10月24日 13時) (レス) @page44 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
9(プロフ) - …滂沱……最高です! (2022年10月24日 9時) (レス) @page44 id: a1a90f72f9 (このIDを非表示/違反報告)
しろくま(プロフ) - ちちちさん» ちちち様、ありがとうございます。どうしても薄暗い健吉ひかる…。次は甘々の二人を!!! (2022年7月27日 8時) (レス) @page35 id: d7e22074ad (このIDを非表示/違反報告)
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