境 界 線 【ybhk】

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そんな俺から見ると、伊野尾と雄也はどうしてこう易々と「付き合う」なんて言いきれたのか、不思議でならなかった……。

「ちょっと、薮くん、行くよ」
雄也の声に我に返る。
「なーにボンヤリしてんだよ、薮」
「おいたんだから仕方ねぇよ」
撮影を終えた伊野尾と光が俺に向かって口々に悪態を投げかけ、ワハハ、と同じタイミングで笑った。
さっきまでの夢女子風から、年相応の20代後半青年男性に戻った二人は、今夜何を食べるかと言い合いながら俺の横を通り過ぎる。

そうか、二人はこのあと晩飯に行くんだ。
「晩飯行くの？俺も混ぜてよ」
どうしてそんなことを急に言ったのか、自分でもよくわからない。
伊野尾と光のサシ飯に、俺が混ざるなんて。
「えー？薮がー？」
伊野尾は口をへの字に曲げて、「どうする？」と光に視線を向けるから、「いや、断るとかマジありえねーし？」と釘を刺してやった。
「……別にいいけど」
光は不愛想に言って、撮影終わったら連絡しろ、と言いおいて、伊野尾と行ってしまった。
背格好はほぼ変らない二人の後ろ姿をぼんやり見送っていると、
「薮さん!スタンバイを!」
と、スタッフに促されて、俺は慌ててセットへと向かった。




「おつ〜」
個室のドアを開けると、白い手をひらひらさせて伊野尾は生中のジョッキを掲げて見せた。
その向かいの光はお通しらしき冷ややっこをつつきながら、眼鏡越しに俺を一瞥し、また冷ややっこに視線を落とす。
「あれ、光は飲まねぇの？」
光の手元にはウーロン茶のグラスだけだった。
いつものような左利き同士、迷わず光の隣に座ってキャップを取り、ザッと髪をかき上げた。
「今日、光は俺の運転手!新車なんだよー。新車、やっぱいいよなー新車って」
ご機嫌で伊野尾が言い、ぐいぐいとジョッキを傾けて「いやー、仕事終わりの一杯はたまらんねっ」とオヤジ臭く言い放った。
「あ、クルマ変えたんだ」
店員に俺も生中を頼み、おしぼりで首を拭く俺もなかなか年齢相応のオヤジなんだろう。
光は小さく頷いて、とあるドイツ車の名前を上げた。
それは光に似合いのスポーティでカッコいいクルマだった。

「今日は送迎は光がやってくれっからね、俺は今夜は飲むつもり〜」
早くも一杯飲み干した伊野尾はすぐに店員を呼んで、こんどは日本酒を頼んでいる。
そのタイミングで俺のビールと、なにやらかしましい感じの唐揚げや大盛りサラダがやってきて、俺は今更カンパイでもないだろうとジョッキに口を付けた。

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