境 界 線 【ybhk】

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それでも、セクシャルな興味は人並みにあり、それにさっさと「男」になりたいという、それこそ子供じみた願望があった。
野郎同士が集まれば経験済み・未経験で格差をつけられるのが常だったから、一刻も早く相手なんか誰でもいいから、というバカげたことばかり考えていた。
メールに散りばめられた絵文字の向こうに、そこはかとなく漂うセクシャルな香りに引き寄せられ、俺は光との約束を迷わずドタキャンした。

とにかく、自分の都合で勝手に光を誘って、勝手にドタキャンしたわけだ。
それでも光はとくに怒りもせず、『そう、わかった』とだけ淡々と答えた。



結論から言うと、女の子を「どうにかできそう」という幾分か願望が込められた予想は当然裏切られた。
健全にボーリングをしてカラオケ行って、なんかファミレスで甘い物を前に喋り、女の子たちは「晩御飯の前には帰らなきゃ」と小学生みたいなことを口々に言い訳して賑やかに帰っていった。
その華やかさとけたたましさは熱帯の鳥みたいだった。
取り残された男3人は顔を見合わせて苦笑いし、「仕方ねぇなぁ」と軽くなった財布を握って帰るしかなかった。

俺は明日からまた仕事の予定が入っていたから、せっかくの休みを17時で切り上げる気にはならず、ダメもとで「光？これから遊ばない？」と電話してみると、偶然近くの楽器屋にいるという。
「おー、なら、これから俺も行くから待っててよ」
さっきドタキャンしたにも関わらず、厚顔な俺は光の返事も聞かずに、また勝手にそう決めつけて電話を切った。

その楽器屋の奥、アコースティックギターのコーナーに光はいた。
地味なグレーのパーカーにジーパンという、いつもの恰好でギブソンのギターを抱えている。
「光」
声をかけると顔を上げた光は「よぉ」とだけ返事してまたギターを抱えなおし、俺のことなんかさほど興味はないと言いたげに、ぎこちない手つきで弦を押さえている。
懸命に手元を確認しているから、ちょっと曲がった光のつむじが丸見えだった。
頑固者はつむじが曲がっているなんていう言い伝えも、まんざら間違っていないと俺は思いながら光の隣に座る。

「なに、光、ギター練習してんの？」
「うん」
「へぇ、もう買ったの？」
「まだ」

光の返事は短い上に可愛げがない。
ぷくぷくしたほっぺたはまだ子供っぽいけれど、初めてであったころから比べると随分あか抜けていた。

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