弐佰参拾弐頁─ト或ル訪問者 3─ ページ6
次の瞬間、敦が何かに襲われたように動転した。
目の焦点があちこちに揺れ、全身がガクガクと震える。
だがそんな中でも敦は大きく口を開けて国木田に何かを必死に訴えていた。
突然のことに頭が置いていかれそうになるもののその違和感は嫌でも直ぐに体感する。
彼の声が一切聞こえなかったのだ。
いや、それだけではない。
窓の外から聞こえる車の音や風の音。
国木田はまるで宇宙に放り出されたかのような無音の世界に取り込まれていた。
「...貴様、ポートマフィアの者か?今は停戦中の筈だが」
「あー、そんな時期もありましたね」
そう云って白髪の女性、鈴奈はかけていた眼鏡を外し専用の布でレンズを拭いた。
その場の雰囲気は素人が見ても糸がピンと張り詰めたような鋭い緊迫感に包まれている。
しかしそんな中で彼女が取る行動は、いつもとなんら変わらないと云わんばかりにゆったりと落ち着いていた。
一見隙だらけなその姿。
だが国木田は動けなかった。
敦を人質に取られていると考えたこともその理由の一つだったが、彼は全身を強く打ち付けた後のような感覚に陥っていた。
手帳を取り出そうとする手が震えて上手く機能しない。
「(音を操る異能力者...真逆......!)」
その時、
帰ってきた者が誰だとしてもこの状況はかなり拙い。
「開けるなッ!」
切羽詰まった声に回りかけていたドアノブが止まる。
この場にいる者のうち、鈴奈だけが自由に躰を動かせていた。
「お、帰ってきたんだ。誰かな〜」
今にも鼻歌を歌い出しそうなご機嫌な笑みを浮かべて彼女は扉へと近づいていく。
「......っ!」
耳を劈く乾いた音。
刹那、彼女は其処から飛び退いた。
先程まで立っていたその場所には銃弾がめり込んでいた。
睨むように後ろを振り返る。
視界に映ったのは震える手で銃を構える国木田の姿だった。
「おぉー!やれば出来るじゃないですか!でもそれ、危ないので貰いますね」
再度放たれる弾丸。
軟体動物を思わせる人間離れした動きで彼女は弾を避けていく。
万が一のことを考え頭は狙っていないものの、それは掠りもしなかった。
国木田は武器を握ることに必死で足にまで力が入らない。
そうこうしている間に鈴奈が彼の眼前まで迫り、軽々とその手から銃を抜き取った。
弐佰参拾参頁─ト或ル訪問者 4─→←弐佰参拾壱頁─ト或ル訪問者 2─
ラッキーカラー
あずきいろ
504人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時