弐佰肆拾漆頁─両組織ノ困惑 12─ ページ21
No Side
「帰ってきたみたいだね」
与謝野は扉を半開きにしてAに手を差し出す。
彼女の表情は既に馴染んでおり、その手をそっと握った。
腕を引かれて医務室を出る。
扉の先にはたった今帰社した二人の男性の姿。
その内の一人、太宰は何やら中也と云い争いをしていた。
そして頭の上に乗るぬいぐるみを認めてAは安心する。
「わ、本当に小さくなってる」
Aに気付いた太宰が近寄り、目線を合わせるように屈んで云った。
彼女はそれに不機嫌になるでもなく、ただ無言でじっと見つめた。
「どうしたの?私が男前に成長してて驚いたかい?」
『いや、それは気にもしてなかったけど。想像以上に変わりないみたいで逆に安心したというか』
この変化の無さを喜ぶべきか否か。
何とも云えない表情を浮かべるAに太宰は小さく笑って話を変えた。
「聞いたよ、昔の記憶しか無いんだってね。今の君が此処でどんな扱いをされてるか知りたいだろう。どうしてもと云うのなら教えてあげても善いのだよ?」
『......結構です。それよりも早く異能の解除を』
「え〜、面白そうなのに会って早々終わらせちゃうのもねぇ」
躰に触れようと伸ばされる手を太宰は軽々と躱す。
猫じゃらしで遊ぶ速さが段々と鼠を追うものへと変わっていく。
そこで暫く傍観していた中也が口を挟んだ。
「おい、あんまり揶揄うなよ。今の其奴、社員を人質に取りかねねぇぞ」
「...て、中也は云ってるけどAはそんな物騒なことしないもんね?」
『あはは、勿論ですよ。優しい人にそんな乱暴しないですよ』
否定するように胸元で手を振り、彼女は柔らかな笑みを浮かべた。
太宰はひっそりと敦の耳元で囁く。
「敦君、よく覚えておくといい。あれがAの怒る寸前だ」
「え、そうなんですか...?」
「コラコラ!意地悪しないノ!」
フルールが両腕を上げて大きく口を開き威嚇する。
彼の云う意地悪とは一体誰に対してか。
そんな光景を見て中也は呆れてため息をつく。
「俺はもう帰るぞ。今日中には戻しとけよ」
じゃあな、と彼は帽子を深く被り直して探偵社を去っていった。
こうして奇妙な数時間が始まった。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時