弐佰肆拾肆頁─両組織ノ困惑 9─ ページ18
「可能性が高いってそれしか出さないとは云わねぇンだな。で、どうせ俺が負けたら何かする気だろ」
『まぁね。負けた方は相手の好きなものを奢る権利を与えよう』
私にかけられた異能が解除された後でもこの記憶が残っているかは判らないが、もしそうなったとしても目的地までの送迎代として贈ることにする。
ま、私にとって記憶障害なんて珍しいことじゃないから覚えてないふりをしたらそのまま押し通せそうだけど。
「それなら今手前が出す手を当ててやるよ。それで引き分けにしろ」
『んー、善いよ。当ててみて』
私の挑戦状に言葉ではなく手で答えを示す中也。
それを見て静かに感嘆する。
彼が示したのは二本指を使った手話。
意味は“ヨコハマ”。
『あらま、やっぱり知ってるんだ。しかも満点回答』
「手前じゃんけんやる時はいつもそれしか出さねェだろ」
『ならなんで自分から引き分けに?』
「今の手前に勝つと面倒だからな」
信号が青になり再び車が動き出す。
面倒とは何だ、面倒とは。
自分の命にも関わるので大きくは騒がないが、運転に支障が出ない程度に私は人差し指を中也の腕に何度も押し込んだ。
『えー、私そんなに意地悪じゃないよ。何処かで頭打ったりした?』
「その云い方が既にそうなンだよ......」
*
「着いたぞ。此処だ」
『わぁ大きな建物』
「探偵社は此処の四階だから丸ごとて訳じゃねェけどな。首領が連絡済みだ。行くぞ」
異能開業許可証を所持していると云うからどんな組織かと思えば、普通に人通りの多い場所に建つ立派な建物。
昇降機を使わずに階段を使って四階まで辿り着く。
中也がコンコンコンと軽く扉を叩き、あちらの返事を待たずにガチャリと押し開いた。
「ちょいと邪魔するぜ。届け物だ」
彼の背中に隠れて扉の奥を覗く。
そこにあったのはよくある一般的な事務所であり、特別変わったところは見受けられなかった。
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作者名:煉華 | 作成日時:2023年1月26日 23時