九話 ページ10
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「……其れで、結局君誰? 君の名が睡蓮……否、雫って事しか判ってないんだけど」
茶番も終わり、私は強く睨まれる。
二回殴って五発打たれるどころか、殺されるかもしれない。
それに雪は何故情報をすぐ話すんだ。私の本名もだ。
……全く、天然も純粋も変わっていない。
「はぁ……。全く、私の"親友"は頭が回らないようだ」
「……親友? 芥川君が?」
太宰さんは、親友と云う言葉に反応した。
恐らく、織田作之助に坂口安吾がいるからだろう。意外に分かりやすいのだろうか。
それか、純粋に芥川龍之介に友がいるということに驚いたのか……。
……何方でも良いか。
私は死にたくない。
精々悪足掻きするとしよう。
「初めまして。改めて自己紹介しましょう。
私の名は睡蓮―――雫だ。歳は君の四つ下だよ」
「……そうかい、私は―――」
「嗚呼、君の自己紹介はいらない。
―――ポートマフィア幹部の太宰治さん?」
いつも通りの笑顔を浮かべる。
太宰さんは何かに気付いたような顔をしてこう云った。
「嗚呼、そうか………睡蓮………。
君は―――"地獄の睡蓮"、だね?」
「やめてくださいよ。中二臭くて嫌いなんです。その呼び名」
「そう? じゃぁポートマフィアが付けた、此の名前は如何かな?」
太宰さんは私に一歩より、私をこう呼んだ。
「―――胡蝶の夢―――」
胡蝶の夢と云うのは、現実と夢の境が判然としない。と云う意味だ。
他にも、この世の生の、儚い例えと云う意味もあるそう。
つまり、ポートマフィアは私を現実の者か空想か、はっきり判断できていなかったという事。
「そんな大層な言葉を私に使っていいのやら………」
「理由の一つは君が思っている通り。
胡蝶は蝶の事、蝶が美しいように、君も美しいと噂もあった故だ」
美しい……か。
そりゃぁ主人公なので当たり前なのだが……。
「此れが誑しと云う奴だね……」
「失礼過ぎない?」
私が納得し、太宰さんが抗議している。
そんな中、またもやあの天然純粋の親友が話し出した。
「胡蝶の夢―――、って雫の事だったのか?!」
「まぁ……。一応……」
「優秀な情報屋が親友だったなんて……。
危ないことに突っ込むタイプじゃないだろう……」
その通り。
情報屋として殺され脅され拷問されるかもしれないが、此のヨコハマでは賢い生き方だと思う。
―――私は死にたくないから、此の生き方を選んだ。
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作者名:雨川秋 | 作成日時:2023年10月24日 0時