三話 ページ4
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「孤児院と云うのはこうも厄介なのか………」
あの後、僕は孤児院を抜け出した。
理由は簡単。親友探しだ。彼奴は涙脆いし、どっかで泣いているかもしれない。
路地裏に入り、周りを確認すると、僕は頭の中の整理を始めた。
・中島敦に成り代わった。
・元女で親友がいる。
・好きな事は蟹と音楽と寝る事と風呂。
・嫌いな事は面倒事と死。
・長所は何でも器用にこなせる事。短所は面倒事を嫌う処。
・元の一人称は私。恐らく中島敦の体に引っ張られている。
・其れなりに頭は良く、中々にモテる。
私については此れ位か………。
他に考えるべきは、此の世界について、そして此の中島敦について………。
………こういう時は風呂に入って菓子を食べたい。
そうすれば何時もの倍頭が働いてくれる。
「あの………」
「………何だい、僕は今考え事をしているのだよ」
「否、貴方の事何て呼べば良いかなーって思いまして………」
いつの間にか、僕に対して敬語になっていた。
否、それはどうでもいい。
そういえば名乗っていなかった。
………どうしたものか。
僕は本名を名乗る積もりなんてない。
偽名でも使うか?
「……睡蓮だ。好きに呼べ」
「睡蓮…? 睡蓮さんですね。宜しくお願いします!」
「元気だね。君は」
睡蓮、多分偽名ってことには気付いてるか………。
即興で思い付いたのには良い偽名だ。
睡眠の花は、僕が好きな花の一つだから。
「敦君。僕は今七歳だ。積まり、幼い子供。て云うことで! 護衛お願いねー」
「ぇ、? あ、了解しました……!」
敦君には実態がなく、幽霊の様なものだが、触れようと思ったら物に触れることができるらしい。
彼の体がどうなっているか良く分からないが、まぁ良しとしよう。
今大事なのは其処ではない。
裏路地を歩き進めていると聞こえる発砲音。
本当に面倒で物騒だ。
今すぐ家に帰ってしまいたい。
ポートマフィアと何かしらの組織が戦っているのだろうか。
少し見に行きたい。怖いもの見たさという奴だ。
まぁ僕は莫迦じゃない。態々危険な場所に行くなんて事はしない。
「あ、あの、睡蓮さん」
「何?」
「音が聞こえる方、行ってみませんか?」
眉を下げ、敦君はそう言った。
―――お人好しだな。
お願いされたとしても、僕は戦場になんか行きたくない。
僕はそういう人間だ。
だから―――
「そうだね。少しだけ行ってみよう」
―――そう云った自分の口に、目を見開く程驚いた。
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作者名:雨川秋 | 作成日時:2023年10月24日 0時