ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ36)

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「…この義眼は、IPSAeyeと言って、特定の人物や建物を注視するとその個体のネット上で管理されている情報ファイルが全て表示される機能が付いてる。最近わかったんだが、この義眼の能力、“それだけ”じゃない。これは、備え付きの凄まじい検索機能によって、個人の管理データに介入し、網膜データをインストールして、読み取り機器に送信し、誤認させることもできる。監視カメラに秘密裏にアクセスして、監視映像を見る事も、地下鉄や店でスキャンした金銭の情報も全て手に入る。────それで、多分これは、シャールさんが作ったものだ」

「つまりアンタが今、自分の人生をかなぐり捨てまで追っ掛けてる人間は、この不安定な情報社会を揺るがす天才的な犯罪者ってワケだ。兄さんって思ったより遥かにおめでたい頭してんだな。アンタが生まれて初めて憧れを抱いたシャーリーとか言う奴は、その天才的な頭を使って、金を盗んだり、人を殺してるかもしれない。そんな社会不適合者の仕事を手伝うって事は、それはつまり共犯者になるって事だ。兄さんがその犯罪の片棒を担いで、人生を溝に捨てるほど、その“シャーリー=ウィル・スウィニー”って、価値のある人間かい？」

「…人が人に価値なんてもの、付けられるわけないだろ。それと、確かに誰も、俺だって、あの人のやってる事が正しいとも言いきれないさ。そもそもあの人が、これまで何をしてきたのか、これから何をやろうとしているのかさえ俺は理解出来ないでいる」ベッド上に胡座をかいてシーツに視線を落とす兄の言い分に、当然ながら生真面目な弟は肩を落とした。シャーリーという人物が、本当に天才で、かつ抜け目ない犯罪者となれば、この社会の情報管理システムの海の中で、自身の情報の隠滅やダミーを走らせることも容易であろう。それもそのはず、社会の知識者さえ開発するのに多大な財と苦悩を要するであろう、その天才が作りたるIPSAeyeなる代物のみが、その人物を追跡できるとなれば、それも納得が行く。まさに、彼女は彼女自身にしか見つける事が出来ないのだ。じゃあと弟は言う。

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