ADAPTER <ｱﾀﾞﾌﾟﾀｰ> (ページ4)

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この同時多発テロ事件は、複数の人間によるものではなく、まして、隠れた共犯者がいる訳でもない。ある得的の人間、“ほぼ単独によるもの”であるのだ。そしてその人物が今どこにいるかも───。

「帰って糞して寝てろ、このクソ餓鬼」

　ロンドン都市部に位置するホテルを訪ね、指定のドアの先で放たれた最初の言葉が“それ”だった。世界的な治安悪化傾向を辿るこのご時世、この程度の暴言は序の口中の序の口、生易しいものと来たらありはしない。ストロベリーブロンドのシモンは、顔色ひとつ変えず海兵のような険しいすまし顔で話を続けた。

「僕はあなたの役に立ちたいのです！ “シャール”さん！」

　ドアの向こうに居る自分の居場所を突き止めて追いかけて来た少年に“シャール”なる女性は、漆黒のはね癖の強い短髪を掻き回した。象牙細工のような血の気の無い美しい顔つき、まるで黒水晶を型どった黒色の瞳。その下にある薄く滲んだ隈と、ロベリアと同じ色の唇が、この女性の不健康体を静かに訴えかけてくる。黒地に金の装飾が施された外套と靴は、輝く月が消え失せた、暗暗とした夜空のよう。外套の左袖口からは、人間の骨格を其の儘象ったかの様な銀の義手が、控えめに輝いている。
　改装したかのように、真新しい木製のドアから覗いた漆黒の姿に、幼い少年の瞳は期待と敬愛を込めて輝いた。

「僕の声が聞こえなかったのかい、このガキ。君のような知恵と常識と思考力…───つまりは頭の足りない───僕の言葉すら理解できないような子供はハウスして寝る時間だ」相反して、黒髪の黒外套は心の底からの不機嫌と不都合を溜め込んだ様な顰め面で、斜め上から少年を見据えている。

「まだ八時半ですシャールさん！」
「ああとも、だから帰って寝てろと言ってるんだ」餓鬼が寝るには良い時間だろう、と舌打ちをしてから、黒水晶の瞳でしつこく自身にへばりついてくる幼子を追い払うように、睨みつける。
「貴方無しの僕に眠る余地などありません！」
「そんなことはどうだっていいんだ僕は帰れと言っているだいたい、小便臭い餓鬼に何が出来るっていうんだい。僕はここに来るまで、しつこく追い回してくる君に、何度も何度も何度も言って聞かせたはずだ。『君は未来永劫僕の役に立つことはない』と、『なぜなら僕には既に何をも補えるる才能と知り合いが大勢いる』」